慣れ


「最近部に顔出せなくてゴメンね。」
 キラが目と手は作業に集中させながら隣のサイに謝る。
 するとサイは頭をポンポンと叩いて気にするなと言ってくれた。
「仕方ないさ。今の時期は生徒会の方も忙しいのは経験者の俺がよく知ってるし。」
 ―――だから昼休みのカフェテリアで不具合チェックなんてやっている。
 放課後は生徒会の仕事の方で手一杯で 部にまで回す時間がキラにはないのだ。


「そーいえばあの時はビックリしたよ。サイが生徒会やるなんて意外だったから。」
 サイとは中学でも部が一緒で、上下関係のない部の雰囲気のおかげか、学年は彼の方が一
 つ上だったけれど友達のような関係だった。
 それは今も変わらなくて。
 だから余計に、彼のことを知っているだけに生徒会に入るなんて信じられなかったのだ。
「ミゲルが高校はバンドに力入れたいからやらないって言い出したんだよなー でもそれで
 俺にくるとは思ってみなかったけど。」
 ミゲルは現在プロのミュージシャンとしても活躍している サイと同じ年の先輩だ。
 中学ではキラ達の前任生徒会の一員で その功績からきっと高校でも同じメンバーだろうと
 言われていたのだ。
 けれどミゲルはそういう理由で誘いを断り、その代わりに入ったのがサイだった。

「でもなんでイザークはサイを選んだんだろ?」
 サイが生徒会の仕事をこなせないとは思っていなかった。実際彼は生徒会役員としてちゃ
 んとやり遂げている。
 ただ、イザークとサイにはこれといって接点がなくて。
 クラスも違っていたし、生徒会に入るまでは言葉を交わしたことすらなかったというし。
 それは当然の疑問だった。
「んー なんか、キラと一緒にいるの見られてて 向こうも俺を知ってたみたいなんだ。ミゲ
 ルの代わりを誰にしようか悩んでるときにそれ思い出して、お前の友達ならまぁ大丈夫だ
 ろうってことでさ。…けっこうアバウトだよな。」
「イザークって……」
 きっとミゲル以外考えてなかったから困ったんだろう。
 自分が信用されているのは正直嬉しいけれども。
 だからってそれは安直過ぎないだろうか…
 彼の意外な一面を見た気がした。
「でもま、後悔はしてないよ。良い経験になったし、思っていたより楽しかっ」


「サイ!!」

「「!?」」
 人目を気にしない大音量の呼び声に、サイは言おうとした言葉を切って 声の主を振り返っ
 た。

「イ、イザーク?」
 怒りのオーラを身に纏ってサイを呼んだのは、さっきまで話に上っていた サイを生徒会に
 任命した 前生徒会長サマ。
 怒りの矛先が呼ばれた自分じゃないことはサイも知っていたけれど、それでもその剣幕に
 はさすがに引いてしまった。
「ディアッカを知らないか!?」
 今度は一体何をしたのだろう、と。
 思ったのはサイもキラも一緒だ。
「いや、見てないけど。何かあった?」
「ディアッカの奴、またシホに余計なことを吹き込みやがってな。見つけたらただじゃおか
 ん。」
 気遣うサイの問いかけに 彼は地を這うような声で不穏な言葉を零す。
 これは素直に出てきた方が身の為だと、逃げたディアッカにキラは心でそっと合掌して。
 それでも妙に律儀なイザークは、キラとサイに邪魔してすまないと謝ってから去って行っ
 た。



 ちなみにここは多くの生徒が利用するカフェテリア。そして今は昼休み。
 好奇の視線は今も残されたサイ達に向けられていた。
 さっきまではそう目立っていなかったが あれの後では嫌でも目立つ。
 そして隣には現生徒会副会長のキラ。それでなくても有名人。

 …生徒会に入って変わったこと。それは人の視線だ。
 今でもイザーク達とたまに行動を共にすると多くの視線に晒される。
 最初はどうしたら良いか分からなくて戸惑ったりもしたけれど。


「…悲しいかな もう慣れてしまった……」
 ぼそりとサイが呟いた言葉は、キラには聞こえなかった。







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つまりはそういうことなのです。
ただでさえ目立つメンツなのでサイは苦労していたようです。



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