ベッドの上で大騒ぎ


 目覚まし用の小さなアラーム音が鳴る。
 長くなりつつある軍人生活のおかげで すでに身体は慣れ、あっさりと意識は覚醒へと導かれた。

 ―――のだが。

 常にはない感触が すぐ傍にあった。

「……」

 初めて、というわけではない。
 似たような状況に頭を抱えたのを覚えている。
 あの時より広くはないベッドの隣、こんもりとしたもう1つの山。
「まさか…」
 嫌な予感がして アスランはゆっくりと白いシーツを少し剥いだ。

「…オイ……」

 結果は予想通りだった。
 思わず出てきた深い溜め息は仕方のないことだろう。

「だから、どうして……っ」

 スゥっと息を吸い込む。
 この状況で遠慮をする気は毛頭ない。

「君がここにいるんだ、ミーア!!」



「…ん〜……」

 普通なら耐え切れず耳を塞いでしまうような大声に、けれど返ってきたのはまだ眠たげな呟きと
 小さな身じろぎのみ。
 彼の女帝と同じ色の瞳はまだ閉じられたままだ。
「…もう ちょっとー…」
「コラ、寝るな! 起きろ!!」
 再びシーツに潜り込もうとする少女からシーツを奪い取って アスランも本気で起こしにかかる。

「こんなところを誰かに見られたら…!」

 暢気なミーアとは正反対に、アスランの方はかなり必死だった。
 あの時のように露出がすごいネグリジェではなく シャツに短パンではあるが、それでも状況は何
 ら変わりない。
 今の状態を誰かに見られればどうなるかぐらい、誰にだってすぐ分かる。

「…もぅ…アスラン うるさぁい…」
「煩いじゃない! 部屋に戻れ! 今すぐ!!」
 だんだんとアスランの声も大きくなってくる。
 さすがにミーアも無視できなくなったのか、目を擦りつつのそのそと起き上がった。

「…むぅ。目が覚めちゃったじゃない。」
 不機嫌そうに口を尖らせるが、怒りがMAXゲージに達しているアスランには通じない。
 何を言ってもそれはアスランの怒りを煽るだけだ。

「当たり前だ! だいたいどうやって入ったんだ!?」

 仮にもアークエンジェルは戦艦だ。
 セキュリティは万全の状態であるはずだし、それを破れるのは キラとあのピンクのハロくらいだ。

「あたしのハロにも開錠の機能があるのよ♪」
 枕元に転がっていた赤い球体を手に持って、彼女は笑顔でそう答えた。
「……は……?」
「ファンクラブの情報で知っててー だからあたしも欲しいなって。この子にも同じ機能をつけて
 もらったの。」
 あっさり言ってのけたミーアに、さすがのアスランも言葉を失くす。

 ピンクのハロにそういう機能をつけたのは確かに自分だ。
 それは当時最高評議会の議長の娘であり、また歌姫であった彼女の安全を考えてのことだった。
 断じてこういうことのために使うものじゃない。

「………。その機能は外す。」
 だから貸せと、彼女の前に手を出して促す。
 当然ながら 彼女もさっと後ろにハロを隠すと抵抗の意を示した。
「イヤよ。そんなことしたらアスランの部屋に入れない。」
「入るな!」

 貸せ!とイヤ!を互いに繰り返して、ベッドの上で攻防戦を繰り広げる。
 とにかく今は取り上げることに必死で、だから気づかなかったのだ。

 ―――外からのコール音に。



「アスラン、入るよー?」

 気がついたときにはすでに遅い。
 アスランが制止の声を上げる前に 扉はスライドされた。


「……」
 1歩踏み入れた後、キラがピタリと立ち止まる。
 視線の先にはベッドの上で 薄着で座っている男女1組。
「………」
 双方言葉が出てこない。
 こちらを見てきょとんとするミーアと 固まった表情のアスラン。
 急いでアスランは離れたようだが、さっきの態勢はどう見ても彼女を押し倒していたように見え
 て。


「…。ごめん、邪魔したみたいだね。」
 沈黙の後、キラはくるりと背を向けた。

「誤解だ!」
 弾かれたようにベッドから飛び降り、アスランはキラの肩を掴む。
 振り向いたキラはにこりと笑って その手を静かに下ろさせた。
「何が? この状況でどう誤解になるの?」

 その笑顔が怖い。
 どんな弁解も受け入れないと 彼の態度が伝えてくる。
 けれど本当に誤解なのだ。
 どうにかして解かなければとアスランは思う。

「だから、これはミーアがハロを使って、」
「キラさん、聞いてくれますー?」
 それを遮るように、後ろからミーアが呼ぶ。
「あのですね、あたしは寝たいのにアスランが寝かせてくれなくって…」
「ミーア! これ以上話がややこしくなるようなことを言うな!!」
 ミーアの言葉を受けて キラがジト目で見てくる。
 完全に楽しんでいる様子のミーアは アスランが怒鳴ってもどこ吹く風。
 クスクス笑うのみだ。

「だから 違うんだ! 俺とミーアは 断じて!」
 今度は腕を掴んでキラを引き止めて。
 まだ信じてくれてはいないようだが、このまま部屋から出てもらうわけにはいかない。
「ひどーい! 婚約者なのに!」
「俺の婚約者は 君じゃなくてラクスだろう!!」

「…痴話喧嘩なら僕が出て行った後にしてよ。」
「だから違う!」


 朝から大声で交わされる会話は、エンドレスに続く―――…







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何気に捏造設定。ミーアにもAAに来て欲しかったなぁ…
ちなみにこれが私の中の愛凸観。



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