初対面の夜


「…あの方は何も聞いてらっしゃらないのですね。」

 夕食の席、父に今日のことを聞かれたラクスはしばらく考えてそう答えた。


 今日、自分の婚約者―――いずれは結婚する相手と初めて会った。
 彼の名前はアスラン・ザラ。
 自分の父と同じ最高評議会の議員であるパトリック・ザラの子息。
 それだけで、自分達の意志と関係ないところで結ばれた関係だとは分かるけれど。
 …でも。自分達の場合はそれだけではなく。


「それは――― 婚姻統制のことか?」
「そうですわ。」
 それを聞いて、シーゲルはふぅと溜め息をついた。
 少し同情も含まれているのかもしれない。

「パトリックはそういうことを言わないタイプだからな……」
「でも それ以前に婚約のこと自体 あの方には突然のことだったようですわ。」


 あの戸惑いようと態度。
 自分のように全てを聞いていればあんな戸惑いは見せないはず。
 聡明な人物ということは、一目見ただけで分かったのだから。

 第3世代の出生率の低下… コーディネイターの限界。
 遺伝子の適合性による婚姻統制。
 試験段階として 選ばれた私達。
 評議会議員子女の中で最も適合率が高かった私達は。

 ―――その先駆けとなる存在だと。

 全てをお父様から聞き、納得していた自分とはあまりに違っていたから。


「…本当に言葉が足りないな。」
 言って彼は苦笑う。

「まぁそれはさておき。アスラン君とは仲良くできそうか?」
「それは分かりませんけど… 私は嫌いではありませんわ。」
 それにはにこりと笑って答えた。


 ただ… 私には望む世界がある。
 彼はそれをどう思ってくれるだろう。
 同じ考えを持ってくれるだろうか。
 私の隣を歩む人は、そんな人が良いから。

「好きになれたら、良いですわね。」




 けれどその数年後。
 私は別の出会いを果たす。
 そして彼もまた、別の女性と出会う。

 課せられた希望よりも、強く想う相手。
 心が惹かれる人に。


 そのことをまだ、その頃の私達は知らなかった―――







---------------------------------------------------------------------


かなり昔に書いたものを発掘。スーツCD3より。
ラクスが婚約に抵抗なかったのは、全てを聞いてたせいかな〜とか。



BACK