故人を想ふ
「あの方は、私の憧れだった…」
寂しげな瞳で、彼女は私にそう告げた。
艶やかに金のウェーブを描く髪、凛々しい瞳の力は強く しかし落ち着いた物腰を持つ美しい女性。
彼女は父の同志であり 同じ評議会に席を置いていた人で、名をアイリーン・カナーバという。
停戦後は評議会も解散し 自由の身となった彼女は、密かに私に会いにこの小島までやって来た。
…話がしたいと、彼女は言って。
キラとマルキオ様が子ども達を遠ざけてくれて、私達は2人きりで静かな教会のステンドグラスの
下でこうして並んで話している。
「…こんなことを娘である貴女に言うのはおかしいのかもしれない。」
ふと微苦笑って 彼女は私の方を見る。
確かにそうかもしれないと、私も思ったけれど。
でも娘だから。私が聞くのが最善だと思ったのも確か。
…彼女に対して知っていることはそう多くはない。
直接話したことはなかったから。
けれど。父の意志を、想いを、最も的確に継いだ人だというのは分かる。
何故なら彼女は父に雰囲気がとても似ているから。
「別に愛が欲しいなどと 少女らしいことを思ったわけではないが…」
彼女には父親ほど年が離れていただろう私の父。
たとえ憧れても恋にはならないであろうはずの年の差。
「でも、愛していた… あの方は奥様だけを一途に想い続けていると知っていても。それでも私は
愛していたのだ…」
遠い瞳をして呟く彼女は、その言葉の真実を伝えていた。
「見ているだけで構わなかった。彼の考えに感銘し、同志となり… そして同じ立場で話をできる
だけで。それだけで私は満足だった。」
喪った人を、思い 哀しむ時間も無く。
彼女はずっと一人で耐え続けてきたのだろう。
それを今、私に話すのは 彼と同じ思いを持っていた者もいたのだと 知っていてもらいたかった
からだと。
「……父は、貴女に感謝していると思いますわ。」
―――彼女の言葉の応えとなるものを。
父の思いを彼女に。
「きっと、父が今生きているならこう言ったと思います。―――ありがとう、と…」
「ラクス・クライン…」
呆然として呟く彼女にふわりと笑う。
立場は違う。
けれど確かに父を愛してくれる人がいた。
それはとても嬉しいこと。
「父を、愛して下さって ありがとうございます。」
正面から深々と頭を下げた。
愛していたことは無駄ではなかったと 思って欲しかったから。
「…それを聞いて安心した。」
顔を上げた先にあったのは 大人の女性らしい微笑み。
そうしてしばらく 2人は静かに笑い合った。
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微妙に未消化。
書きたかったのは大人の恋愛。
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