再婚反対
※その他にあるのに何故かアスキラ度が高い話。
「エザリアと再婚しようと思う。」
急に部屋に訪れたかと思うと、何だか見たことないほど気味悪い笑顔で言われ。
理解するまで数十秒。
その後の行動は早かった。
"俺はこの結婚を認めません。家を出ます。"
その晩 俺は書き置きを残して家を出た。
「―――で。僕の所に来たわけ?」
キラが呆れつつ ベッドに座るアスランの隣に腰掛ける。
他に行く場所もないからとここに来たアスランを、普通に出迎えてくれるのはそれだけ彼が入り
浸っているせいだろうか。
泊まることもキラの両親はあっさり承諾してくれた。
「俺は絶対認めない。」
頑として曲げようとしない彼に、珍しい子供らしさを見てキラは苦笑う。
「まぁ、アスランはレノアさんが大好きだったし、お父さんが急に再婚と言っても許せないとは」
「そうじゃない。」
言葉を遮って、あまりにきっぱり言うものだから キラは戸惑ってしまった。
不思議そうな顔をして横顔を覗き込む。
「父が再婚するのはどうでも良い。俺の母は1人だと思っていればそれで構わないし。」
「…じゃあ何が嫌なわけ?」
そう、父の再婚は反対しない。
反対するような年でもなければ、親子の絆も深くはない。
するなら勝手にしろ、と普通であれば言っただろう。
だがこの場合はその"普通"に当てはまらなかった。
「俺が許せないのは―――」
「…"は"?」
キラは律義に言葉を待ってくれている。
無意識に拳を握りしめてわなわな震えだしたのを、そっと手を沿えて心配してくれるのも。
この上なく嬉しい。幸せだ。
―――が。
やっぱりこれだけは許せない。
「イザークが兄になるなんて許せるはずがないだろう!!」
「は、はぁ…」
急に大声を張り上げたアスランをびっくりして見ながら、キラは困ったような表情をする。
それでも1度外れたら勢いは止まらない。
「どうしてよりによってエザリア様なんだ!?」
他の誰でも良い。
彼女でなければ。イザークの母親でなかったなら。
もちろん父に1番近いのは片腕である彼女だと分かってはいたが。
彼女が相手でなければ本当に誰でも反対はしなかった。
「絶対見下す! 俺が弟だって!? 冗談じゃない!!」
イザークの弟になるなんてこと、これほど嫌なことはない。
もともと突っ掛かるのが彼の趣味なのに。兄弟なんてもっと比べられるじゃないか。
さらに立場的にはこっちが下。
それこそ冗談じゃない。
「や、あのね…」
何とか宥めようと肩に触れてくるキラの手を取って、そのまま自分の元に引き寄せる。
彼は驚きで一瞬身を固くしたけれど、すぐに力を抜いて優しく背中を叩いてくれた。
「どうせならここの養子になりたい…」
キラもいるし、小父さんと小母さんは優しいし。
ぎゅっと抱く力を強くする。
優しいキラはそんな行動にも柔らかく笑うだけで。
「でもその場合、僕が兄になるよ?」
くすくす笑いながら言うのは冗談だと思っているからだろう。
でも俺の方は半分以上本気だ。
「キラはどう見ても俺の方が兄貴にしか見えないし。」
見た目も中身も昔からそうだから。
「どういう意味だ。」
それにはちょっと怒ったようにどんと背中を強めに叩いてくる。
「それに」
え?
キラが認識して呟くより早く。
世界が反転して気が付けば、アスランがにこやかな笑顔でキラを見下ろしている状態で。
手首は彼によってベッドに縫い止められて身動きがとれない。
要は押し倒されたというわけ。
その勢いでスプリングが軋んだ音を立て身体が揺れた。
「いつも一緒、つまりいつでもこういうことができるし♪」
「〜〜〜っ!?」
首筋をなめられて 思わず声を出しそうになる。
それはどうにか飲み込んで。
「冗談! 下には父さんも母さんもいるんだから!」
「それもスリリングで良いね。」
睨んでも抵抗しても、それは煽る結果にしかならない。
「僕は嫌だ!」
「バレたくないなら声を出さなければ良いだろ? …できるかは別として。」
「…ぃ…っ」
必死の抵抗虚しく。
結局美味しくいただかれてしまった。
*******
アスランの家出から数日後。
根を上げたのは他の誰でもなく、何故かキラだった。
『―――というわけで、さっさと連れて帰って下さい。』
仕事中のパトリックの元にアスランのことで話があると入ってきた通信。
相手はその息子の家出先の少年で、何かあったのかと繋いだところ、そういう言葉が返ってきた。
『このままじゃ僕の身体がもちません。』
通信越しでも分かるどことなく憔悴している顔がなんだか痛々しい。
心なしか衣服がよれているのは彼の為にも見なかったことにした。
「…うちの愚息は今何を?」
『下で母さんと茶ぁしばいてやがります。』
敬語が間違っているがどうにも本人もキレかかっている為訂正もしない。
パトリックもあえて何も言わなかった。
『今日は好きなシフォンケーキなので僕も早く行きたいところですが、こういう時でもない限り
放してもらえませんから。』
「…迷惑をかけてしまっているようだな……」
いつも礼儀正しく素直な彼が、不機嫌全開で他人の前に出るのを見たのは初めてのこと。
それだけ今回のことは耐えきれなかったのか。
自分も原因の一端であるだけに パトリックも強く出ることはできなかった。
『―――ところで。』
ふと思い出したようにキラが声の調子を変える。
『イザークの方は納得してるんですか?』
この再婚について。
その言葉に、そういえば彼はエザリアの息子とも知り合いだったなと思い出し。
「それは昨日エザリアが…」
「パトリック!!」
続いた言葉は大音量のそれにかき消されてしまった。
扉が開いたかと思うと 慌てた様子でエザリアが中に駆け込んでくる。
「エザリア?」
何事かと顔を上げた時には すでに目の前まで彼女は来ていて。
今にも泣きそうな顔で 握り締めてくしゃくしゃになった紙をつき出した。
「あの子が! イザークが家出を!」
ピンポーン
すごく良いタイミングで、通信の向こうでチャイムの音が聞こえた。
そして彼の母親のはーいという声が続いて聞こえる。
『まさか…』
嫌な予感がしたのか、目の前のキラの表情が苦いものに変わった。
『キラー お友達よー』
階下から呼ぶ声が聞こえるが、キラは返事も返さず動きもしない。
心なしか顔色が悪い。
『何故貴様がここにいる!』
ガコッ
ものすごく聞き覚えのある声に、キラは目の前のディスプレイに勢いよく頭を打ち付けた。
エザリアも驚いたように通信画面を覗き込んでくる。
『それはこっちの台詞だ イザーク! 君はディアッカの所に行けば良いだろう!?』
『奴は彼女とデートだとかでいなかった。だからここに来たんだ。貴様こそ寛ぐな!!』
『生憎とキラの家は俺の家も同然だ。』
2階まで2人の大きな声は届く。
低レベルな口争いは十分兄弟ぽいじゃないかとキラが思ったかどうかは知らないが。
どうしても相容れない2人の声は大きくなる一方で。
キラの肩がわなわな震え出した。
「どうかしたのかね…?」
『いえ…』
とは言うもののどう見ても普通ではない。
そして、しばらくは黙って座っていたのだが。
『貴様が弟だなど俺は認めん!』
『こちらこそ願い下げだ!』
ガタン!
椅子を倒す勢いでキラが突然立ち上がる。
ちょっとすみません、と何か抑え込むような声で言った後 彼は部屋を去り。
『2人ともいい加減にしてよ!!』
ゴン
ガスッ
小気味の良い大きな音の後、途端に画面の向こうが静かになった。
そして、戻ってきたキラは満面の笑みをパトリックとエザリアに向けて告げた。
『今のうちに連れ帰って説得してあげて下さい。』
だからうちを巻き込むな、と。
その壮絶な迫力に、パトリックはザラ家の嫁には申し分ないと思ったとかどうとか。
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ギャグなので気にしないで下さい。キラは男の子です。
ってゆーか、キラは一体「何」で2人を殴ったのでしょう?
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