選んだ道の先 −≪32≫


 シュンと開いた扉。

 顔を上げ、前に現れた光景に アスランは目を瞬かせる。
 外に人がいるとは思っていなかった。

「…どうしたんだ?」
 正面に座っていたディアッカと隣に立つニコルがこちらを見ている。
 2人とも張った緊張が解けたような表情をしていて、アスランは首を傾げた。

「キラさんはもう良いんですか?」
「え、あぁ。今やっと眠って、だから隊長の所へ行こうかと。」
 キラのこれからのことについてだ。
 聞かないわけにはいかない。
 それに、キラが目覚めた時には傍にいてあげたいから。
 行くなら早い方が良いだろう。

「じゃあ ちょっと―――…」


「アスラン。」
 呼ばれて隣を振り向く。
 イザークは壁から背を離し アスランと向かい合うように立った。

 そして握りこんだ右の拳を目線まで上げてちらりと見る。
 アスランにはその行動の意味がよく分からない。

「? 何―――」

 ヒュッ

 突然前触れもなく飛んできた拳を 反射的に後ろに避けて左掌で受け止める。
 パシッと乾いた音がした。


「…避けるな。」
 いつもの怒りを抑えるようなものではなく、どこか楽しそうな軽い声。
「殴られるようなことをした覚えはない。」
 それにアスランもまた軽口で返す。

 剣呑な雰囲気とは遠い、涼しい笑みの2人。

 しばし互いを見遣って。

「―――…」
 余裕さえ見えるその応えに満足したようで、イザークは拳を下ろした。


「生意気だな。」
 再び腕を組みなおし、見下すように顎を上げる。
 けれどそこに浮かんでいるのは嬉しささえ見える 見るのは初めてに近い表情。
「その方がお前らしいが。」

 その言葉の先に やっと元に戻ったか。と暗に言っているのを感じ取って。
 アスランはフッと穏やかに笑った。


「さっさと行って来い。その間俺達はここにいる。」
 照れなのか、些か突き放すようなもの言い。

 返事を待たずにイザークは中へと入る。
 そしてこちらは2度と向かなかった。

 普段なら怒っているのだろうかと 気にも止めないその態度でも。
 今は言葉の奥の意味が見えるから。
 何も言わずにニコルとディアッカの方に肩を竦めてみせた。

 今までは気づけなかった些細なこと。
 でも今なら素直に受け止められる。
 それは心に余裕ができたせいだろうか。


「もしキラが起きたらすぐに戻ってくると伝えておいてくれ。」
 それに彼らが笑ったのを了承と受け取って、アスランは足早にその場を去った。






 繋げた未来
 続いた"これから"
 今はそれだけが嬉しくて
 目の前の幸せだけを見ていて

 だから気づいていなかった。
 これから変わっていく世界のことも。
 世界が 再び大きく動いていたことも。

 俺達はまだ 全く知らなかった―――


 →第2部へ





---------------------------------------------------------------------


管:ってわけでオマケの話です。アスランを殴って欲しかったのに見事に避けやがりました(笑)

ア:何故俺が殴られかけなければならないんだ?
イ:つい殴りたい衝動に駆られてな。
ア:アレ本気だっただろう? 当たってたら痣になってたぞ。
イ:本気に決まっている。何故貴様に手加減する必要があるんだ。

ディ:…なんか意志の疎通ができてるぞ。
ニ:僕に言われても…

管:結局仲良いんだよね。
ア&イ:良くない! …ッ(互いを睨む)
管:あぁもう分かったってば。


管:上のがアイアイに見えて笑えるなぁ…(どうでもいい独り言)




BACK