選んだ道の先 −≪番外5≫
「何を考えているんだ 隊長は…っ」
苛立ちを抑え切れず荒々しく歩くのはイザーク。
その後ろからニコルとディアッカが付いて来るという形だ。
「あれはどう考えても単なる足止めだ。」
先程の様子を思い出す。
途中で呼び止められ、振られた話はわりとどうでも良いこと。
もう伝えた後だと気づいただけでも慌てたというのに。
わざとのんびりとした口調で、明日は晴れるだろう、今宵の月はどうだから、そんな話を延々
と続けようとし。
急いでいるのだと言おうとしたら、キラの所に行くのかと聞かれた。
そこで口籠もると 笑ってやっと解放してくれた。
「アスランに任せろってことなんだろうけどさぁ。それでどうにもならなかった時にどう責任を
取るつもりなのかね。」
言いながらディアッカは肩を竦める。
「…取るつもりはないのかもしれませんね……」
ポツリとニコルが呟き。
イザークの足が止まる。
「ニコル…」
振り向いて聞き咎めるように言うが、ニコルに改めるつもりはないらしい。
顔を上げて真っすぐに、イザークの方を見てくる。
「僕らはキラさん寄りの考えを持っていますが 隊長も同じとは限りません。」
「もしくはどっちでも良い、か?」
ディアッカの言葉にハッとしたような顔をした後、目が合ったニコルはこくんと頷く。
腑に落ちないのはイザークだけだ。
「どういう意味だ?」
「あの人の言動はいつもゲームの賭けみたいなもんだろ。」
言葉は悪いが最も的確な表現だと思う。
「そしてどっちに転んでも先のシナリオはある。それが有能な人間だ。」
そして クルーゼ隊長は自分達が尊敬するほどに有能な人物。
そのシナリオの数は自分達が想像する以上のものだろう。
「キラが味方になるもならないも、生きるも死ぬも隊長にとってはどうでも良い、関係ないこと
なんだよ。役に立てば使うし、立たなければ切り捨てだ。」
冷たい言い方だが あの人ならやりかねない。
ディアッカはそう認識していた。
「ディアッカ。隊長は…」
そういう人じゃないと、イザークは言うつもりだった。
「そういう人だ、あの人は。」
けれど 言う前にばっさり切り捨てられた。
「そうでなけりゃ、俺に頼み事をしてわざわざ遠回りさせたり無意味な話を振ってきたりはしな
いだろ。そんな意味のないことを隊長がするはずがない。」
言葉に窮した。
さっきの行動もそう考えれば納得できてしまう。
「急ぎましょう。たとえ隊長の考えがそうであっても、僕らは彼を死なせるわけにはいかないん
ですから。」
ニコルの一言で意識が現実に戻され。
3人は目で確認しあうと 再び進路をキラの部屋へと向けた。
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「キラ!!」
「!」
その声にパネルまで伸ばされたイザークの手が止まる。
何事かと思ったディアッカとニコルも、イザークの表情ですぐに事態を察して中に意識を向けた。
素足が床に触れる音。
遅れて重なるブーツの硬質な音。
「止めろ!」
アスランの声が中から響いてくる。
狭い部屋だ、足音はすぐ傍までやってきていた。
ここを開ける気だ、と3人共咄嗟に判断し。
止めるつもりで身構えた。
―――が。
扉が開くと思われた瞬間には 何も起きず。
代わりに倒れる音がひとつ。
その後は音が消えた。
「な、なんだ…?」
訝しんで呟いたディアッカを黙れとイザークは無言で睨む。
「「?」」
不思議そうに首を傾げ、顔を見合わす2人を気にも止めず、イザークは再び扉へと視線を戻した。
音が消えた廊下。
イザークが動かないせいで他の2人もどうしようもない。
中の様子を伺っているのだろうが、彼らには中で何が起こっているのか分からない。
会話が聞こえるのは扉前にいるイザークだけだ。
ただ、黙って見ているしかなかった。
―――しばらくして。
そのイザークが不意にフッと笑って、横の壁にもたれ掛かった。
安堵したような、あまり見ることができない穏やかな笑みだ。
その表情からもう安心して良いのだろうと、ディアッカは向かいの壁に座り込む。
そしてニコルもその隣に並んで立った。
一応聞きたいこともあるのだけれど。
今の雰囲気からして音は出していけないような気がして。
とりあえずはイザークのする通りに黙って待つことにした。
誰も声を出さない奇妙なほど静かな時。
その沈黙が解けたのは、キラの部屋の扉がシュンと開いた後のことだった。
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管:入らなかった、談話室を去った後の3人です。
ディ:どうせ入んないなら27は要らなかったんじゃないの?
管:言わないで。でもあの話がないと貴方の出番は無かったわよ?
ディ:それはそうだけどさ。
管:あそこはイザークの心情整理の為に必要だったしね。
管:1つ聞きたいんだけど。
イ:?
管:どこまで聞いてたの?
イ:…別に良いだろう、そんなこと。
管:いや、けっこう重要。
イ:…… 奴が告白するところまでだ。
管:その時の感想は?
イ:やっと言ったか。
管:そっか。ありがと。
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