選んだ道の先 −≪番外3≫


-side K-

 アスランは部屋に入ってこない。
 開いた扉の外でユーリ先生が出てくるのを待っている。
 当然だ、僕がそうしたのだから。
 彼が今そこにいるのは、それが仕事で彼の義務だからだ。


「…寝ろって言わなかったか?」
 点滴の時間が終わって、針を抜きながらやっぱり言われてしまった。
 プロ相手に誤魔化せるわけがないから苦笑いで返す。
「眠れないんです。」
 それに呆れた溜め息をつかれて。
 …いや、諦めだったかもしれない。


「―――先生。」
「だからユーリで良いって。で、何だ?」
 てきぱきと慣れた手つきで片付けながら、それでも優しく返してくれる。

 豪快な態度なのに繊細な心配りをする人。
 無意識のうちに甘えそうになって、いつもそれを隠すのに苦労していた。
 "ユーリ=エレクルド"という医者はそんな人だ。

 よく動く彼の手を眺めていたキラの視線がユーリへと上がる。
「睡眠薬下さい。」
 ぴたりとその手が止まった。
 そして向けられたのは困ったような顔。
「薬に頼るなと言ったはずだ。しかももう君の身体に効く物はそうないぞ。」
 これ以上強いのも、数を増やすのも、副作用の面から考えれば危険だ。
 キラもそれは知っていた。
 知っていて、困らせると分かっていて、それで敢えて言っている。
「だって… 独りで寝れるようにしなきゃ…」
 アスランがいないと眠れないなんて。
 それじゃ優しい彼は僕から離れられない。
「だからってすぐ薬に走るのはどうかと思うぞ。」
 困ったように言われては あまり強くも言えない。
 彼は医者だから、認めないのは仕方ない。
「ほら。目だけでも瞑れ。そうすれば眠くなるかもしれないだろ。」
「…はい。」
 渋々目を閉じる。
 でもすぐに眠れるわけはなくて。
 傍にあるユーリの気配がさらに神経を研ぎ澄まさせて。
 苦笑いされているような気がする。

 その向こう、扉の向こうにはアスランの気配。
 あ、そうか。アスランを感じていれば寝れる、かな。
 でもそれじゃダメか。
 どうしても僕はアスランに甘えてるんだな。

 バカみたいだ。

 必要ないと切り捨てておいてなお、彼を求めている。
 自分のこの汚さに嫌気がさす。
 こんな人間、やっぱり死んだ方が良い。
 アスランだってそっちの方が幸せに決まっている。


 不意に瞼の上に温かいものが被さる。
 それが手のひらだとすぐに気づいたけれど。
 でも、誰のものか考え至る前に意識が落ちていく感じがした。

 温かいな…

 不思議な安堵感に包まれて、僕は眠りに落ちていった。



*******



-side A-

 さすがにその日はそれ以降、中に入るのが躊躇われて。
 ユーリの苦笑いを受けながら、彼を中に押し入れた。

 扉の脇に背中を預けて、ぽつりぽつりと問いに答えるキラの声を聞いていた。


「…はい。」
 渋々といった様子で目を瞑るキラの脇で、ユーリは苦笑いをしている。
 それくらいで眠れないことは彼も承知しているのだろう。
 けれど、俺としても薬に頼るのは賛成できない。
 効果が強い薬はその分副作用も強いのだから。
 弱ったキラの身体に対する負担はかなりのものになるだろうし、その身体にどんな悪影響が
 出るかも心配だ。

「―――…」
 どうにかしなければと思ったかどうかは自分でも分からない。
 その時何かを考えて行動したわけではなかったから。
 気がつけば 背中は壁を離れていた。

 足音を消して部屋に入り、ユーリの脇を通り過ぎて。
 目を閉じたキラの瞼に そっと掌を置いた。
 眠れない夜、怖い夢を見たと泣いていた夜に こうして安心させていた。
 昨日のようで霞むくらい遠い昔のような。
 その日と同じことを。

 それで本当に眠れるとは思っていなかったけれど。

 しばらくして、身を固くして息を潜めていたキラが力を抜き 規則正しい寝息を立て始める。
 それにホッとして手を離した。


「―――天然睡眠薬か。」
 ユーリが後ろでくすくすと笑う。
 結構良い表現だな、と思いながら、傍にある椅子を引き寄せた。

「1人で戻ってくれ。俺はここにいる。」
「了解した。」
 大体予想がついていたのだろう。
 あっさり承諾すると、ユーリは止めていた手を再び動かし 残ったものを片付ける。
「それじゃあ またな。」
 挨拶代わりにポンと肩を叩いて、彼は鞄を手に踵を返した。

「…いつになったら報われるのかねぇ。」
 出際に振り向きユーリが笑う。
「なるべく早くと願いたいな。」
「俺も願っているよ。」
 最後は互いに苦笑いで、ユーリは手を振り扉を閉めた。


 どんなにお前が拒んでも、俺はここに戻ってきてしまう。
 お前の傍にいたいから。

 拒絶の言葉は痛い。
 冷たい笑みは苦しい。

 でもそれ以上に。

 俺はお前がいないことの方が辛いから。
 どんなに傷つけられても離れられないんだ。

 だから。

「せめて寝ている間だけは…」

 俺を拒まないで。







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管:再び登場、ユーリさん。
ユ:でもこれだけだろ?
管:うん。この後ずっと先までないね。(予定表を見る)
ユ:はっきり言われると嫌だな。
管:だってそうだもん。
ユ:それより、何故俺はαなんだ?
管:だって誰も名前知らないじゃない。書いたって誰それ?だよ。
ユ:だからって+αは無いんじゃないか?
管:それでニコル父と間違われても困るし。
ユ:そういや同じだったな。そのおかげでニコルは懐いてくれたが。
管:名づけた後で気づいたのよねぇ。「ユーリって名前いたような…ま、いっか。」で。

ア:…話の中身について話せよ。
管:珍しい。アスランがまともなことを言ってるわ(失礼)
ア:お前達が進まないからだろう?
管:あはは。悪い悪い。
    この番外は21で出て行ったはずのアスランが何故22ではキラの所にいたのか、の話です。
キ:僕も不思議だったんだよね。
管:22の後書きで書こうとしたけど忘れててさ〜 だからここに。
ア:忘れてたのか。
管:何故かキラの入浴についてに変わったからね。
キ:変な風に言わないでよ! 何故歩けるようになったか、でしょ!?
管:でも私の疑問はそこだったし。
ア:誤解も解いたし良いじゃないか。
キ:そういう問題じゃない!!(赤面)



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