選んだ道の先 −≪番外2≫


 本国に戻って、余った時間にラクスを訪ねた。
 父も彼女に会うと言えば文句は言わない。

 …彼女には 頼みたいことがあった。



「…怪我をした小鳥を、保護されたそうですわね。」
 一口紅茶を口に運んだ後で、カップを置きながら彼女が言った。
 柱や格子状の屋根にツタが張り巡らされた東屋。
 置かれたテーブルと椅子は光を反射する白で、遮る物が無い為に静かな風が通り過ぎる。
 その風が 彼女のフワフワとして柔かそうな桃色の髪を揺らした。

「―――あれは保護したというのでしょうか。」
 少し困ったように アスランは答える。
「鳥籠から逃がした鳥を 別の鳥籠に閉じ込めただけですよ あれでは…」
 美しいアメジストの瞳をした鳥。
 求め、焦がれてやっと手に入れた。
 それは"保護"ではなく、"奪った"という方が正しいのかもしれない。
 …元はといえば 先に奪ったのはあちらではあるけれど。


「…傷を負った鳥は、飛べるようになるまで看る者が必要ですわ。」
 だから鳥籠に入れるのでしょう?
 海の蒼をした瞳は気遣うようにアスランを見ている。
 けれどそれにも自嘲の笑みしか返せなかった。
「それでは 傷が癒えたら手放さなくてはいけないように聞こえます。」

 そんなこと。…できるわけがない。
 手放したくない。誰にも渡したくない。
 やっとこの手に掴んだのに、その手を再び離すなどできるだろうか。

「手放さなくても自由にはできますわ。」
 本人の望むようにすること。
 できる範囲でそうして差し上げれば良いのではありませんか?
 鳥籠から出しても貴方の所に留まるのなら。
 もう元の場所に飛んで行こうとは思っていないのでしょう?

 もう生きる場所はアスランの所しかない。
 それは分かっていることだ。
 でも違う。
 それは"生きるなら"の話。

「それはダメです…」
 アスランは力無く首を振った。
「あの鳥は 自由とは死ぬことだと思っていますから…」

 手に入れた時 すでにその鳥はボロボロに傷付いていて。
 飛ぶことすら諦めて、死を望んでいた。
 今も、鳥籠の中で 近付く死を待っている。
 望むようにさせたのなら あの鳥はすぐに死を選んでしまう。

 生きていてくれるならどんな望みも叶えよう。
 俺はただ 傍に居てくれればそれで良いから。
 でも、死を選ばれたら俺はお前を永遠に失ってしまうんだ。


「どうしたら良いのか、もう分かりません…」
 力を込めすぎた拳は 色を失って小刻みに震える。
 でもその痛みさえ無意味だ。

 俺のせいなのだろうか。
 もっと早く助け出していれば良かったのだろうか。
 無邪気な微笑みを失ってしまった。
 自由に大空を飛ぶことすら忘れてしまった。
 そこまで追いつめてしまったのは俺なのだろうか。

「そんなに自分を追いつめないで下さい。」
 ハッとして顔を上げると、彼女は穏やかな微笑みを浮かべていた。
「貴方は何故ここにいらっしゃったのですか?」
 分かっていて、わざと問いかける。

「…そうでしたね。」
 ここへ来た目的。
 忘れてはいけない。

「―――知恵を、貸して下さい。」

 俺は、愛しい者を助ける為にここに来たんだった。
 お前が望まなくとも、俺はお前を死なせたくないのだから。
 絶対に死なせたりはしない。
 これだけは お前にも譲れない願いだから。







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管:なんで鳥? 別に誰も聞いてないのに。
ア:俺はラクスに合わせただけだけだ。
ラクス(以下ラ):だって キラ様って鳥みたいなんですものv
管:回答になってるようななってないような…
ア:深く考えない方が良い。
管:…そうね。



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