43話より妄想


 サイとはシフトが違ったから別々の昼食になってしまった。
 1人で食べるのはちょっと寂しいなとは思ったけれど。
 初めてというわけじゃないから。

 少しずつそれに慣れてきたのは… 良いこと、なのかな?

 前はいつもトールと一緒で。
 それが当たり前で…

 1人じゃ食べたくなくて、抜いたことも何度かあって。
 そんな時は気を使って サイがいつも誘ってくれた。

 でも、今は平気。
 1人でもちゃんと食べれる。
 それはトールを忘れたとか そんなんじゃなくて。
 …ただ、食べないと迷惑かけるから。
 自分のできることをしたいからココに残ったんだもの。
 だからちゃんとしなくちゃって。

 それに、食べないと…



「今日はサイとかいう奴と一緒じゃねーの?」
 思考を遮って現れたのは、浅黒の肌で 金の髪をした人。
 名前はディアッカって言ってた。
 私はまだ名前で呼んだことないけど。
 すっかりAAにも馴染んじゃって、整備員の人達とも気軽に挨拶してる。
 様子からして可愛がられてる、って感じかな。

 その人達と離れて、彼は私の前の席に座った。
「サイはブリッジよ。」
 無視しても良いんだけど、目の前に居てさすがにそれはいけないかなと思って、真面目に答えて
 あげる。
 フーンとだけ言って、彼は自分の食事に手をつけた。


 というか…

 思ってちらりと彼を盗み見る。

 どうして私の前に座るのよ…っ

 食堂の席が空いていないということはなくて。
 むしろガラガラというくらい少ないのに。

 それなのに、どうして私の前に来るの?

 元から飄々としててよく分からない奴だけど。
 彼が考えてることは私には理解できない。
 …あえて理解しようとも思わないけど。


「おっ 仲良くランチか? 妬けるねぇ。」
 からかうように言ってきたのは数人の整備員の人達で。
 小突いたり肩を叩いたりして彼の周りに彼らも座る。
 ここだけ一気に騒がしくなった。
「隅に置けねぇなぁ お前も。」
「そんなんじゃありません!」
 言ったのは私。
 彼は笑っているだけで肯定も否定もしない。
 けれど、彼らは驚くどころか逆に笑っていた。
「お嬢ちゃん 照れ隠しか?」
「安心しなって。俺達その辺は寛容だから。」
「艦長と少佐のこともあるしな。」
 そう言って全く取り合ってくれない。
 完全に誤解されてる。

 彼が勝手に前に座っただけで、私達はそういう関係じゃない!
 と、叫んでもきっと聞いてくれないんだろうなぁ…

―――元はといえばこの男のせいだっ

 睨みつけてやったけど、彼はそれに気づかなかった。



 *******



「残念だけど、俺達まだそんな関係じゃないんだよね。」
 肩を竦めて彼がそう言った。
「ホントかぁ?」
「ホントホント。」
 からかうように言われた言葉も笑って流す。
「…でも。」
 そう言いかけて、周りを見つつにっと笑った。

 …一瞬私の方見た気がしたけど、気のせいかな?

 気のせいだと思ってた。
 でも、次の言葉で、私は確信せざるを得なくなる。
「狙ってる所だから手ぇ出さないでくれよ。」
「―――!!?」
 私の顔が赤くなるのと、周りの視線が集まるのが一緒で。
「な、何言ってんのよ!?」
 気が付いたら立って身を乗り出していた。
「そのまんまの意味。」
 彼は平然としていて。
 笑みをこっちに向けていて。
 …それに一瞬怯んでしまったのは伏せておく。

 とりあえず気を落ち着けて、すとんとまた席についた。
 でもそれで納得したわけじゃない。
「…手を出すとか…っ 私はアンタのものじゃないわよっ!?」
「だから 狙ってる所って言ってんじゃん?」
 あっさり返されて、悔しかった。
「アンタ 私に何されたっけ…?」
「殺されかけたな。」
「分かってるじゃない…」

 それでさっきの言葉っておかしいんじゃない?

「でも アレ、俺が悪かったんだし。」
 知らなかったとはいえ、彼の心無い言葉で私は我を失って。
 あの時は本気で殺そうと思った。
 すぐに間違いに気づけたから良かったけど。
「そういえば 意識したのってあの時からなんだよなー。」
 何気に言った彼の言葉は 脱力というか呆れというか。
 そんな感想しか出なかった。

 よりによって殺されかけて意識する?

 やっぱり彼は理解ができない。
「アンタって、変…」
「そう?」
 それでも彼は何処までもマイペースで。
 もう ため息しか出なかった。
「でも 俺…」


 ビーッ ビーッ

 突然 嫌な警告音が場に鳴り響く。
 そして第1戦闘配備の通告が聞こえた。
 全員の表情に緊張が入り込み、足早にトレイを片付け食堂を後にする。
 それはもちろん私達も例外じゃない。


「アンタのせいで ほとんど食べれなかったじゃない!」
 苛立ちついでにぶつけてみる。
 整備員の人達のトレイは空だったのに、私と彼のはほとんど手がつけられていない。
 話すことばかりで食事を忘れていた。
 それは彼も同じだから、これはただの八つ当たりなんだけど。
 でも、彼がいなかったら私は食べ終わってた。それも事実。
「帰ってまた食べれば良いじゃん?」
 軽く彼は返してくる。
「その時は一緒に食べようぜ。」
「嫌よっ!」
 即答してプイっと顔を背けて彼とは逆の方へと向く。
 彼の微かな笑い声が聞こえたけど絶対振り返ってなんかやらない。
 悔しいけど。絶対に。
 1度も振り返らずにその場を去った。



 絶対に言ってやらないんだから。
 悔しいから言いたくない。

 …彼のおかげで寂しくなくなったなんて。

 少しずつ私の中に入ってくる。
 余計な言葉も多いけど、でも優しさを感じてる。
 恋とはまだ違うけど。
 彼と居る心地良さがトールと重なる。

 心がトールを想い出にしようとしてる。
 優しくて甘い過去にしようとしてる。

 まだダメだって思うけど。
 戦争が終わるまでは、そう思ってるけど。

 でも確実に。
 彼の存在が大きくなってる。
 自分でも止められないくらい。

「絶対に言ってやらないけど…」
 ポツリと呟いた言葉は 誰にも聞こえなかった。







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一緒に食べてるの、本編はブリッジクルーなんですけどね。
あえて整備員の皆様にしてみた。



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