長期戦?


 本当は…
 告白するつもりなんてさらさら無かったんだけどな。


「…ゴメンナサイ。」
 長い沈黙の後、彼女は小さな声で言った。
 答えは分かっていてもとりあえず伝えておこうと思って、わざと冗談交じりで軽く言ってみた。
 本気と取られないならそれでも良い。
 けれど、俺の気持ちを察した彼女は 真面目に、そして馬鹿にすることなく答えた。

「私、まだトールを忘れられないから…」
 彼女は俺の方を見ずに 俯いたままで言った。
 その口から紡がれた、彼女が失った愛しい恋人の名。
 けれどそれで感情が激しく動くことは無かった。

 理解していた。
 というよりは、恋人を想って悲しむ彼女に俺は惹かれていたから。
 そんな彼女を守りたいと、思ってしまったから。

「…まぁ 当たり前だよな。」
「!」
 反射的に彼女は顔を上げる。
 それには少し驚いてしまった。
 今にも泣きそうな、必死な瞳で俺を見ていた。
「わ、私…」
 傷付けたとでも思ったのだろうか。
 一生懸命言葉を探しているように見えた。
 俺は気にしてなんかいないのに。
 全部知っていて言ったんだ。

「ま、気にすんな。」
 いつもの調子で言って肩をポンと叩く。
「俺は俺で気長にいかせてもらう。」
「え?」
 きょとんとしたように彼女はこちらを見た。
「無理に忘れろなんて言わないぜ。」
 俺を殺そうとしたほど好きだったんだろ?
 それだけ、好きだったんだろう?
 そこまで分かっていて 無理強いしたりはしない。
「だから、気遣いも要らない。」
 何年でも待ってやるさ。
 お前がアイツを忘れるまで。
 俺のことを考える余裕ができるまで。

「…覚悟は要るかもしれないけどな。」
「っ!」
 意味を理解して赤くなった彼女が面白くて。
 思わず笑ってしまった。







---------------------------------------------------------------------






BACK