ペア


 クラスの女の子達はアスランのことを、「無口でカッコ良い」って言う。
 確かに何をやっても1番で 頼れるし、僕から見てもカッコ良いと思うよ。
 本人は気づいてないみたいだけど かなりいるんだよ、アスランが好きって娘。
 ただ、"無口"っていうのは人付き合いが苦手なだけで、実際はすごく怒りんぼうなんだけどね。

 そう、アスランってね、人と話すのが苦手なんだ。
 他はあんなに出来るのに不思議だよね。
 いつも無表情だから、嫌われてるかも なんて心配する子もいるけど。
 アレって何話せば良いか分からないだけなんだよ。
 教室に居ても本ばっか読んでて僕が誘わない限り輪に入ろうとしないし。
 だからいつまでもクラスに馴染まなくって。

 ―――だから、僕もアスランを放っておけないんだ。
 普段は頼ってばかりだけど、こんな時だけはね。



「キラ、次の実験 一緒に組もうぜ。」
 1人の男子生徒がキラが居る教卓に来てそう誘ってきた。
 次回の化学の実験は誰とでも組んで良い、と回ってきた伝言のおかげで教室内はいつも以上にざわ
 ついている。
 女の子達はどう分かれるかでもめているのか、どこそこで耳が痛くなるほど甲高い叫び声が聞こえ
 てきたりもしていた。

「え、でも…」
「俺のが先に誘ったんだからダメ。」
 ひょこっと横から出てきたもう1人がベッと舌を出す。
「勝手に決めんなよ。そういうことはキラが決めんだろ。」
「あ、俺もキラとが良い。」
「僕もー」
 なんだか人が増えてきた。

 キラは実験の類はわりと好きな方で、つまり得意分野。
 アスランと比べるからそうでもないように見えるだけであって、実際成績の方も悪い方ではない。
 だからこういう時キラはかなりの人気があるわけで。
 元から友達は多いから その倍率はけっこうなものである。

「おーい…」
 まだ誰にも"うん"とは返事できていないキラが ちょっと困ったように呼ぶけれど。
 白熱したジャンケンバトルを始めてしまった彼らには聞こえていないらしい。
「僕の意思は……?」
 普通 僕が決めるんじゃないの?
 でも今は言っても無駄かもしれない。
 まぁ 友達なんだから誰とでも良いんだけど。


 なかなか決着がつかない勝負に苦笑いしつつ キラは視線をめぐらす。
 そして、1人教室の隅で本を読むアスランが目に止まった。
 騒がしい空間の中で、そこだけが別世界のように 静かに止まって見える。
「……」

 アスラン…

 キラは一息つくと、突然バトルが続く輪の中に割って入った。
「ゴメン! みんな僕抜きで組んで!!」
 それだけ言って また輪から抜けていった。
 そして向かうのはただ1つ。



「アスランっ 相手決まった?」
 弾む声で話しかけてくるキラにアスランはゆっくりと顔を上げる。
「まだ、だけど…」
「じゃあ一緒にしよう。」
 やっぱりって表情でキラが笑って言った。
「でも… 良いのか?」
 ちらりとやった視線の向こうには別の意味で白熱したじゃんけんをしているキラの友達。
 アスランはさっきのキラ争奪バトルを見ていたようで、心配そうに聞いてくる。
「ん? アスランが別の子としたいって言うなら僕も他をあたるよ。」
 何食わぬ顔でキラは返事を返した。
 しかし、他 と言ってアスランが思いつく人物はいない。
 話す相手というなら"キラの友達"で、自分の友達じゃないから。
「いや…」
「じゃあ決定だね。」
 アスランの反応に満足したような笑顔でキラは応えた。


「あ、失敗は許さないからな。俺と組むからには完璧にやってもらう。」
 付け足しみたいに軽く言われた言葉にキラはうっと苦く唸る。
「……………はーい……………」
 そう返事を返したは良いものの。

 そういえばそうだった…
 完璧主義者のアスランはこういうのがとっても厳しい。
 間違えようもんなら何言われるか。
 思い出して後悔したけどあとの祭り。

 でもま、覚えてても誘うんだろうけどね。







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アスランってキラ以外に友達いたのかな…?



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