宣戦布告(+サイキラ)


 最近気になる視線がある。
 気が付くとこちらを見ている―――キラの友人とかいうメガネの男。

 キラへの態度を見ていればコーディネイターに偏見があるわけではないようだ。
 かと言ってディアッカとも普通に話しているから、ザフトに何かあるということでもないのだろ
 う。

 …ならばこれは。

 殺意すら見えるあの視線は、俺個人に対する憎悪か。





「アスラン、だっけ。何してるんだ?」
 エターナルに用事があったのか、アスランが通路の窓から宙を眺めているところに 偶然通りか
 かったらしい。
 彼―――サイという名だったか―――は 友好的な態度で近づいてきた。
 その顔に笑顔まで浮かべて。

「……。憎悪を向けられている相手にそんな笑顔で話しかけられても気味が悪いな。」
 もちろんその笑みが表面だけのものだと分かっているが。
 視線だけそちらに向けて言うと、途端 さっきまでとは違う笑みに変わった。
「…ハハ。面白いね、お前って。」
 気分を害してそのまま去るのかと思いきや、彼はアスランの隣に並ぶ。
 変な奴だと思った。
 何か含みがあるんじゃないかと思ってしまうくらいに。


「でもさ。別に俺に嫌われたところで痛くも痒くもないだろ? 君はキラさえいれば良いんだろう
 し。」
「確かにそうだな。否定はしない。」
 何だ、バレていたのか。
 それなら構わないかとあっさり言い切ったアスランに、彼は声を出して笑った。
「…本当に、キラの特別じゃなかったら気が合ったんだろうに。残念だよ。」
「―――あぁ、キラか。」

 彼の視線の意味を、向けられる感情の意味を、そこで初めて理解した。
 似た者同士なら惹かれる相手だって当然同じだ。

「そ。狙ってたのにお前がいるおかげで靡いてもくれなかったよ。」
「当たり前だろう? どこで変な虫が付くか分からないのに、予防策を取っておくのは当然だと思
 うが?」
 キラの身持ちの堅さはアスランの教育の結果だ。
 幼い頃からアスラン以外には気を許すな、と。そう教え込んできたのだから。
「迷惑な話だよ、まったく。結局キスまでしか許してもらえなかった。せっかく君と敵になって
 チャンスだったのにさ。」
 ピクリと、アスランの片眉が反応を示す。
 それに気づいたのかそうでないのか、それ以上は何も言わずに視線を宙へと投げた。


「キラはいつも遠くを見てた。どこを見ているのかとずっと思ってたけど、今思うと宙を見てい
 たんだな。」

 君がいる遠い場所を。
 果たせなかった約束の地を。

「…キラにとって俺は"代わり"だったのかもしれないけど。」

 似ていると言われたから。だから安心できると。
 キスを許されたのもそれがあるからだろう。
 キラの基準はアスランだ。

 けれど、

「俺の方はそうは思っていないから。」
 再び、今度はぴったりと合わせられた視線。
 彼は不敵に嗤って言った。

 これは宣戦布告。
 見えない火花が間に散る。





「2人ともそんなところで何やってるの?」
 その沈黙を破ったのは第3者の声。
「「キラ」」
 意外な組み合わせだね、と、2人を見つけたキラはのほほんとしながら近づいてきた。
 そして2人は一瞬で殺伐とした空気を消して笑顔で彼を出迎える。
 考えることは同じで、それは結構癪に障ったけれど。

「どうしたんだ?」
「あ、うん。整備の人がアスランを呼んでたよ。で、僕も用があるから一緒に行こうかなって。」
 だから探していたのだと、笑って答えるキラが可愛くてアスランはポンポンと頭を撫でてやる。
 昔なら子供扱いするなと怒っていたが、今のキラは素直に受けて笑うだけ。
 それは嬉しいけれど少し違和感があって複雑な気分にさせられた。


「―――なら俺はもう帰るよ。」
 ヒラヒラと手を振って サイが背を向ける。
 その背中にキラが慌てて声をかけると 振り返った彼はさっきまでは見せもしなかった優しげな
 顔で笑った。
「たまにはこっちに食べに来いよ。ミリィも待ってる。」
「うん。時間があったら必ず行くね。」
 キラは完全に気を許している。
 面白くなくて肩を引き寄せたら、去り際に一瞬だけ視線を寄越した彼と目が合った。

 本気だということか…

 その一瞬の出来事で、アスランは正確にサイの心情を読み取っていた。
 目が合った時の彼の瞳は、あっちの目をしていたから。






「アスランもサイと仲良くなったんだね。」
 互いの間にどんな会話がなされていたかも知らず、キラは素直に喜んでいる。
 ここで真実を教えてやっても良いのだが、知ればキラは戸惑ってしまうだろうから。
 そのことについては何も言わずにただ手を繋いだ。
 ごく自然な動作だったからか、気にすることなく握り返してきたキラにしめたと思う。
 そして外れないようにしっかり繋ぐと甘く笑んだ。

「…キラは彼とキスしたことあるんだって?」
「っ!?」

 手を繋いだのはもちろん逃がさないためだ。あんな話を聞いて黙っていられるはずがない。
 ザーッと青ざめるキラを見ながら わざとにこりと笑ってみせると、彼はさらに慌てたようだっ
 た。
「あ、あれは…っ サイが悪戯で仕掛けてきただけで、1回だけの話で…っっ」

 あぁ、でも1回はしたのか。
 嘘ではなかったことに軽く苛立つ。
 不意に掴んだ腕を引き寄せて、バランスを崩したキラを抱きとめるとそのままの態勢で強引に口
 づけた。

「…っ ん…ふ……っ…」
 感情に任せて割り込ませた舌で彼の口内を暴れまわる。
 抵抗も言葉も全て力でねじ伏せて。
 それは一方的にぶつけるだけの乱暴なキス。
 突然のことに驚いて強ばっていた身体が次第に力をなくしていっても、普段は止めるところを無
 視して。

 …そしてキラが酸欠になるまで、アスランは十分キラを味わった。



「今回はこれで許してやるけど 次はないからな。」
 声も出せない状態らしく、キラは力無く首を振るだけで精一杯のようだ。
 でも返事は満足のいくものだったので、今度は笑顔で軽く触れるだけのキスを落とした。


「愛してる、キラ。」
 腕の中のキラをギュッと抱きしめる。
 彼には見えない位置で アスランは昏く笑んだ。


 誰にも渡したりなんかしない

 やっと手にいれた、俺だけのキラ―――







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最後のセリフが自分で痛いと思います。
…実はキスシーンなかったんですけど、気づけばアスランさんが(汗) この人怖い……
元はうちの姫がアスランとサイでキラの兄権争奪!とか言ってたものから。



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