開錠


 言葉にしない感情

 それはカギを閉めた扉の向こう側


 扉の向こうには何がある?






 放課後 教室で日誌を書いていたアスランの元へ、荒々しい足音と共に幼馴染が駆け込んで来た。

「ちょっとアスラン!」

 何やら慌てたというか驚いたというか、ズカズカと自分の席までやってきたかと思うと 顔を引き
 つらせたまま見下ろしてくる。
 ……どうやらこれは怒っているらしい。
 長年の直感でそう思った。


「アスラン、君に好きな女の子がいたなんて 僕初耳なんだけど。」
 何事かと思えば。
「へぇ。それは俺も初めて聞いた。」
 悪びれなく返すと、キラの眉がいちだんとつり上がった。
「嘘言わない! 昨日君に告白した子が聞いたって噂になってるんだよ!」
 どうして言ってくれないのさ!と怒鳴っているキラを尻目に昨日のことを思い出す。

 そういえば言った気がする。
 好きな子がいるならどんな子か教えて、って。

 そう言われて答えた内容に偽りはない。



「―――その 俺が好きだという子はどんな子だって?」
 この際だから分からせておくかと にっこりと笑顔をキラに向ける。

「え? えーと、思わず触れたくなるようなさらさらの髪で、」
「うん。それから?」
「吸い込まれそうな大きな瞳…」
 思い出そうと頭を捻っているところに影が落ち、キラが顔を上げれば アスランはいつの間にか席
 を立っていた。
 しかし問題はそこではなく。

「ア、アスラン…? どうして近づいてくるの、かな…?」
 本能が告げるのか、思わずといった風にキラは数歩後退る。
「ん? 気にしないで続けて?」
 笑顔のアスランもその分だけ前に進んで。
 それを数回繰り返しただけで、足が机に当たってキラには逃げ場がなくなった。





「…そ、それから、吸い付くような 柔らかい肌……」

 理由も分からず キラの背を冷や汗が流れる。
 何だろう、すごくアスランの目が怖い。
 獲物を狙う獣のような、昏さを秘めた鋭い瞳。
 触れられたら最後、そのまま喰われてしまいそうだ。

「それと、引き寄せたくなる細い腰と、」
 なかなか言わないキラに焦れて、アスランが代わりに次の句を継いで。
「えっ? うわっ!?」
「キスしたくなる唇―――」
 腰を引き寄せ、一気に縮まってしまう2人の距離。

 翡翠の瞳が閉じて、唇に柔らかい感触が触れる。
 何が起こったのかキラが認識する前にそれは離されてしまったけれど。


 呆然と相手の顔を見やると、彼は壮絶と言えるほどの妖艶な微笑みでこちらを見ていて。
 それを綺麗だと見惚れたのは一瞬。
 状況を認識して頭に一気に熱が上った。
「な、なにす……っ!?」
「キス。」
「言うなー! しかも何で僕に!?」

 頭がパニック状態で、キラは半分涙目になる。
 アスランはどうしてそこまで冷静なのか、とか。
 今自分達はアスランの好きな女の子の話をしていなかったか、とか。
 言いたいことはたくさんあるけど、とりあえず1番の問題はどうして自分がキスされたのかだ。

「何でって、キラが言ったままだろ。それに俺は女の子だなんて言ってないし。」
「普通言わなくても女だと思うよ!」

「うん。でも俺が好きなのはキラだから。」

 驚くほどあっさりと告げられた愛の告白は。

 理解するまで数秒を要した。


「んな…!?」
「鈍いね、キラ。そういう所も可愛くて好きだけど。」
 言葉を無くして口をパクパクしているキラとは正反対で、相手は照れも悪びれも無くさらに言って
 のける。

 さらには1度告げたら遠慮がなくなったのか、腰をがっちり固定すると思う存分触れてきた。
 ひとつひとつの反応を楽しむように、耳たぶを甘噛みし、項を長い指で撫で、首筋に吸い付いて。
 その度に キラは赤くなったり震えたり。
 素直な反応を返すほど、相手の行動はエスカレートしていく。




「…聞かなければただの親友でいられたのに。」

 くすりと微笑う表情は、誰もが魅せられる 全能の王にも似て。
 その王は、抗えずにいるキラに最後の宣告を下した。

「覚悟しろよ?」



 カギを開けたキラに逃げ場は――― ない。







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幼年期でも良かったけど、ここまでくるとパラレルの方が良い気がして。



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