欲求
「僕は貪欲な人間だね。」
ふと、急にキラがそんなことを言った。
疑問をそのまま表情に出して問えば、キラは微かに笑う。
「―――最初はね、君と戦わなくて良くなれば それだけで良いと思ってた。」
どうして2人が殺しあわなくちゃならないんだろうって。
何度も思って。
手を振り払ったのは自分だけど、でもそんな勝手なことを願ってた。
「…だから。僕はこうして君と僕が同じ目的で、同じ立場に立ったら。それで満足すると思っ
てたんだ。」
キラは目を細めて ゆっくりと言葉を紡ぐ。
その視線の先は果てない漆黒の宙。
僅かに星から漏れ出る光が彼の横顔をを照らす。
「始めは目が合えば嬉しかった。君がここにいて背中を預けてる、それだけで幸せだった。」
銃を向け合っていた2人が背中を合わせて戦う。
夢みたいで、もう悲しくて苦しい思いをしなくて済むと思うと嬉しくて。
「でも、いつしか足りないって思うようになった…」
向けた苦笑いのまま、キラは指先にそっと触れる。
1歩分だけ離れた距離は最後の砦。
「…君に触れたいって、思ったんだ。」
俯いた目線は手元に落とされ、触れた指を今度はきゅっと握る。
「そしたら離れたくないって願った。」
指が絡む。
空いた方の手をキラの髪に差し込んで梳けば、そちらも指に絡め取られた。
「どんどん飢えていくんだ。叶う度に次を求めだす。」
触れて、離れず、傍にいて。
そしてそれから?
次に願うものは 何?
「こんな自分は嫌いだ。相手の負担ばかり増えるから。」
遊ぶように絡んでいた指が離れようとする。
それを逆にさらに深く絡ませると、びくりとキラの指が反応した。
「―――俺は嬉しい。」
「え…?」
驚いて顔を上げたキラに微笑んでみせる。
「もっと貪欲になっても構わない。」
それが本心。
あの頃のような 我儘も、甘えも、涙すら見せないキラへの。それが今の本当の気持ち。
「でも、それは君には負担にしかならないだろ?」
首を振って キラは1歩身を引こうとする。
それを追いかけて、身体をずらしキラの背中をガラスに軽く押し当てた。
「負担じゃない。それはとても嬉しいことだから。」
「嘘。」
言葉は即座に否定される。
信じないと 目が言っている。
けれど 言葉は真実。告げる気持ちも本物だ。
「本当だ。だってそれはキラが俺を好きだということだろう?」
「っ!?」
顔を真っ赤にしてキラは言葉を失くす。
目を逸らそうにも 逃げだそうにも、どちらも今の体勢からは無理。
見開いた瞳は目の前の己の姿を映し出している。
「キラが俺と同じくらい 俺を求めてくれていること、それがとても嬉しい。」
「ア、アスラ…っ」
「―――良いよ、もっと望んでも。大丈夫だから。」
柔らかな唇の端に、掠めるような軽い口付けを落とす。
それが次にキラが望むもの。
望む度に 望むものをあげる。
キラが欲するままに。俺に追いつくまで。
…そしていつか。
俺のように、キラも俺無しじゃ生きられなくなって?
それは言葉に出さずに、ただ微笑った。
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後半が気に食わない。前半はわりと好き。
リハビリ作品。
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