1番綺麗なモノ




"―――って何だと思う?"

 誰かに聞かれた問い。
 それに何と答えたかは覚えていない。
 だってそれは本当の答えじゃなかったから。


 本物の僕の"1番綺麗なモノ"。
 それは誰にも言えない、誰にも見れないとびきり綺麗なモノ。
 僕だけの秘密の宝物。





 窮屈な軍服の襟を緩めてベッドに腰掛けそのままころんと横になる。
 久々のシーツの感触の気持ち良さに頬を擦り寄せ、満足げにふふふと笑って。

 そんな僕の子供っぽい仕草に同室の彼がくすりと笑った。


「寝るなら上着は脱げよ。」
「良いよ、どうせそんな長くは寝ないんだからこのままで。」
 相変わらずの保護者みたいな言い分は聞く耳持たずで否定。
 分かっていたのか彼は呆れた溜め息をひとつついて。


「なら―――」
 ギシリとスプリングが軋んで陰が落ちる。

「俺が脱がせようか?」
 悪戯っぽく笑って 上を向かされた。

 いつもなら何かしらの反応をするはずの瞬間。
 逃げようと身を捩るか、顔を真っ赤にして黙るか。

 けれど今は。
 ただじっと見上げるだけ。


「キラ―――…?」
 高い位置から見下ろしてくる彼。
 それでも答えずじっと見つめていると不思議そうに首を傾げて。

「アスラン」
「ん?」

 こんな時にしか見れない深い翠色。
 そしてこの先の変化も。
 僕にしか見れない。


「…この色が1番好き。」
 手を伸ばして頬に触れて。
 にこりと笑えば彼も笑いかけてくる。

「―――誘ってる?」
 目を細めてくすっと笑う。
「どうだろう?」
「じゃあ好きに取るさ。」

 近づいてくる彼の綺麗な顔。
 その中でもとびきり綺麗な瞳はすでに熱を帯び始めて。

 この色も好き
 僕だけを見てくれるこの瞬間の色


 "1番綺麗なモノ"

 誰も見れない僕だけの
 たった1つの宝物







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