act.1--キラ
それは桃色の桜が散り始め、若い芽がちらほらと覗きかけている季節。
窓際に座るとその暖かさに眠りに落ちてしまえそうなほど 心地良い平和な時間のこと。
「キラ、愛してるv」
!!!!?
満面の笑顔で紡がれたセリフに教室の空気が凍りつく。
春の麗らかな陽射しの下、この場だけがまるで冬に舞い戻ったかのようだ。
思わず振り返ってしまった者、逆に固く目を瞑って見なかったことにした者。
その反応は様々でも 皆気持ちはほぼ同じ。
"これはきっと悪い夢だ、聞き間違いだ"と。
けれど皆同じものを見て聞いていればそれはただの現実逃避。
夢ではあり得ない。
そして今、この凍りついた空気の原因を作ったのは、学校一の優等生 アスラン・ザラ。
よく言えば冷静沈着、悪く言えば無表情。
教師さえも一目置くというその人が、今発した言葉は何だったか。
分かっていても認めたくない。
そんな空気の中で、1人動揺していなかった、その言われた本人が盛大な溜め息をついた。
キラ・ヤマト… 彼は自他共に認めるアスランの唯一の親友。
笑顔の彼に対してこちらは疲れたような顔をしている。
「アスラン… そういう冗談は場所を考えようよ…」
君の場合 周りには冗談に聞こえないから。
怒る気力もないといった風に 心底呆れた声で。
そう言えば アスランは周りを見渡して苦笑った。
「…こういう時 優等生はつまらないな。」
「あの、さ… いつも思うんだけど。何で"ソレ"なの?」
そんな、女の子相手に言うようなセリフばかり。
"愛してる"とか"好きだ"とか。
最近はますます増えた気がする。
しかも今回は教室にまだ多くの生徒が残っている時。
「いや、なんとなく。」
帰ってきた答えは曖昧で。
答えになってない。
「何ソレ。変だよ。」
「―――じゃあ、もう1度言う?」
何か分かるかもしれないよ?
これが女の子だったら間違いなく卒倒しそうな。
そんな距離と微笑みで。
「…バカ言わない。」
けれど見慣れたキラにそれは通じず。
半眼で見据えてそれだけ言うとスクッと立ち上がる。
「どこ行くの?」
「トイレ。先 帰る用意しといて。」
〜〜〜バカ アスラン!
キラが向かったのはトイレではなく、階段下の陰。
そこにうずくまって さっきアスランの前で見せた溜め息とは違う意味で息を吐く。
「心臓に悪すぎ…」
ボソリと呟いたキラは耳まで真っ赤に茹っていて。
実のところ冷静にいられるのはアレでもう限界だった。
「人の気も知らないで言わないでよ…」
心臓も息苦しいほど脈打ってる。
これらを隠すのにどれだけ苦労しているか、彼は知らない。
アスランが欲しい言葉は知ってるよ。
僕の答えも本当は決まってる。
でも僕は君の「親友」、それが「契約」。
―――だから 惑わせないで。
「僕も好きだよ…」
君の前では言えない言葉を。
今日も1人紡ぐ。
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キラはアスランが大好きなんです。
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