死にネタ


 動かなくなった機体からキラが降りてくる。
 アスランも同じように自身の機体から出、地に足を付けた。
 荒涼とした地に 今は2人。
 対峙した2人は、わずかに距離をもって立ち止まる。


「やっぱりアスランには敵わないね…」
 昔から、僕は君に勝てなかった。
 苦笑いを浮かべていった後、キラはアスランに持っていた銃を向ける。
「…止めろ。」
 言いつつアスランも銃を持った手をあげた。
 けれどキラと違うのは、その苦しそうな表情。
「投降しろ、キラ。」
 もう良いだろう。これ以上戦って何になる。
「俺は… お前を撃ちたくないんだ。」
 キラより先に引き金を引くことくらい造作無い。
 俺は自ら志願し 訓練を受けた軍人。
 でも キラは状況に流されて、巻き込まれてこの戦争に関わった一般人だ。
 いくらMSの操縦に長けていても、生身で戦うのとはワケが違う。
 キラがその銃を俺に向けるというなら、それより早く俺はお前を撃ってしまう。
「だから…」

「――― もう遅いよ。」
 その声はどことなく震えていた。
 薄く笑んでいても、その紫の瞳は潤み 今にも大粒の涙が流れ落ちそうだ。
「僕はもう戻れない。こんなところで止められるわけ、無いよ。」

 たくさんの人を殺したんだ。
 君の仲間をたくさん殺してきたんだ。
 だから、僕に残された道はこれしかないんだよ。

 銃を持つキラの手に、わずかに力が入る。
「キラ…っ 止めろ……!」
 俺に、お前を殺させないでくれ…!


「アスラン!!」
「「!!?」」
 声は 対峙した2人のちょうど間、側方から聞こえた。
 もう1人、赤いパイロットスーツを来た少年がこちらに走ってくる。
「!」
 キラがそちらの方を向いた。
 そのキラの動きに何かを感じたアスランの表情が青褪める。
「来るな! ニコル!!」
「え?」
 キラがアスランに向けていた銃口は、ピタリとニコルの方に向けられていた。
 咄嗟に立ち止まって ニコルも銃に手をかける。
「キラ!」

「これでも、君は僕を許そうとする…?」
 ニコルを見据えたままで キラが微笑った。
 そして迷わずキラは引き金を引く。

 鳴り響く銃声と、アスランの絶叫が荒れ果てた地に響いた。



 *******



「―――…」
 微笑んで、倒れたのはキラだった。
 鳴った銃声はニコルのもので、それはキラの身体を貫き、地は赤い色に染まりだす。
 キラは撃っていなかった。
 撃つ"フリ"をしただけだったのだ。
 銃には、弾なんて入っていなかった。

「キラ!!」
 駆け寄ってきたアスランに、キラは満足げに笑ってみせた。
「これが、僕の…望んだ結末、だよ…」

 なのに、そんな泣きそうな表情。
 どうしてそんな顔するの?
 これは僕の運命なんだ。
 僕が自分で選んだ運命なんだよ。
 だから君が悲しむ必要なんか無いのに。

「本当に 君は優しいんだ、から…」
「それ以上は喋るな!」
 応急処置として、止血の為に身体を縛る。
 けれどそれすら意味が無いように、キラの血は広がっていった。

「あ……」
 近づいてきたニコルは、倒れているキラの様子を見て青褪める。
 咄嗟のこととはいえ、彼を撃ってしまったことに動揺して ニコルの手は震えていた。
 そんな彼に、キラは目を向けて微笑む。
「…そんなに…自分を責めなくて、良いよ。君は… 敵を撃った、だけなんだから……」
 そう、僕は敵なんだ。
 だから、アスランもそんなことしないで。
 放っておいてくれて良いんだよ。
「僕…っ 救援を呼んできます!」
 居た堪れなくなって ニコルは自分の機体の元へ連絡を取りに走って行った。

 キラはそれを見て苦笑いする。
「…だから、放っておいてくれ、て…良い、のに……」
「馬鹿! こんな所でお前を死なせられるか…!」
「アス、ラン…」
 キラの目から涙が零れ落ちた。
 微笑っているのに、キラは泣いていた。
 上がるキラの息には、わずかに空気が混じった音がする。
 握り締めた手が少しずつ冷たくなってきた。


「ねぇアスラン…」
「…なに?」
「ごめん、ね… でも、僕、君のこと、好きなんだよ…」
 僕の気持ちは今でも変わらない。
 敵になんて、なりたかったわけじゃなかったのに。
「これだけは… 言って、おきたかったんだ…」
 最期くらい、正直になっても良いよね…

「―――…俺も 好きだよ…」
 だから、そんな別れみたいなこと言わないでくれ。
 また やり直そう。
 3年前に別れたあの日から、また。
 そう言ったら、キラは今までに無いくらい、本当に満足した笑みを浮かべた。
「…ありが、とう……」

 その言葉さえあれば、僕はもう 何も要らない…

 ゆっくりと目を閉じる。


「キラ…?」
 握っていた手が 力を無くし、ずしりと重くなる。
 赤みを消していく肌、キラの身体はピクリとも動かない。
「キラ!?」
 抱きしめて その体温を残そうとしても、キラの身体は冷たくなっていく。
 頬を寄せて触れた肌はまだ柔かく、今まで生きていた証拠なのに。
 流した涙はキラの頬にも伝ったけれど、彼はもう動かない。

「――――っ…」
 声にならない嘆き。
 誰も責められない。誰が悪いわけでもない。
 行き場の無い怒りと悲しみは 涙となってキラの身体を濡らす。

 どうしてお前が死ななきゃならなかったんだ!?
 俺は、お前を救いたかったのに…
 なのに、何故…っ お前は俺を置いて逝く…!?

 キラ―――…!







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