指輪


「アスラン。」
 いつになく真剣な顔で キラが声をかけてきたのは、ジャスティスの整備をしている時だっ
 た。

「どうした?」
 手を休めてキラの方を振り返れば、キラはちらりとだけ傍にいるメイリンに視線をやる。
 それはほんの一瞬で、キラは一度目を伏せると 顔を上げて真っ直ぐに射抜くような視線を
 向けてきた。

「…君さ、カガリと話 した?」
 その一言で 言葉に詰まる。

 分かってはいる。AAが宇宙に上がるまでそう時間は残っていない。
 けれど、彼女とはまだきちんと面と向かって話はしていなかった。

 カガリが忙しいからというのはただの言い訳で。
 確実に変わるものがあるような気がして、だからつい避けてしまって。
 このままだと後悔することは目に見えているのに。


「…カガリは、今も大事に君の指輪をしてるよ。」
「……」
 知ってる。気づいてる。
 だから彼女の気持ちは疑っていない。
 ただ、自信がないだけだ。

 何も言わないアスランに、キラの視線が一段ときつくなる。
「出発する前にはっきり決めてあげて。振るなら振るで、ちゃんと言って。じゃないと カ
 ガリは次に進めないから。」

 ん…?

「ちょっと待て。」
 今、言葉がおかしかった。
「どうして俺がカガリを振ることになるんだ?」

「―――彼女。」
 キラは 言って後ろにいたメイリンを視線で指す。
「選ぶつもりなら、カガリを振ってからにしてね。」
「は!?」
 明らかにワケが分からないという反応を返すと、キラはあぁと納得したような顔をした。
「誤解ならちゃんと解いてきた方が良いよ。カガリはその気だから。」
「!!」

 …もう、不安だとか言っている場合じゃなかった。
 後は頼むとキラに全てを任せて、アスランは急いでカガリの元へと向かった。




*******




「…この指輪、返す。」
 執務中にもかかわらず 彼女は俺が来ると人払いをして。
 そして対面するとこちらが何か言う前に、それを差し出された。

「カガリ…」
 終わりかと思った。キラの言う通りだ。
 けれど受け取らず、アスランはそれをもう一度握らせて その手を押し返した。
「…これは俺の気持ちだから。…受け取ってくれないなら 捨ててくれ。」
「アスラン…?」

「ごめん… でも、カガリの気持ちが俺から離れたとしても、俺はまだカガリが」

「え、ちょ、ちょっと待て! なんか誤解してないか!?」
 何故か慌てた様子で カガリが言葉を遮った。
「え?」
 でもキラが… それに"指輪を返す"ということは、つまりはそういう意味で。
「…違うのか?」
 アスランの問いの答えにカガリがこくんと頷いて。
 瞬間、キラにはめられたことを悟った。


「…私が指輪を返すと言ったのは 今の私にはまだ相応しくないと思ったからだ。」

 紅い石が付いた指輪を愛しげに見つめて、彼女はもう一度それを差し出す。
「だから今これはアスランが持っていてくれ。…そして戻ってきた時、まだアスランが私を
 好きだったら――― もう一度この手に。」
 その時までにはもっと立派になっているからと。
 微笑んだ彼女は もう十分立派だと思ったけれど。

「一緒に行けない私の代わりに。―――想いだけは共に。」

 石に軽く口付けて カガリは指輪をアスランの手の上に乗せた。
「…っ」
 感謝の言葉の代わりに彼女の腕を引いて抱き寄せて。
 勝手に不安を感じて避けていた自分を恥じた。
 彼女はいつだって、傍にいることを選んでくれていたのに。



「死ぬなよ? 今度は追いかけて行けないんだからな。」

「…あぁ。必ず返しに来る。」



 遠く離れていても、心だけは隣に。

 彼女がくれた想いを持って 俺は宙にいく。


 そして必ず戻ってこよう。

 共に過ごす未来の為に。








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DESTINY45話直前(というか当日の深夜)に書いたアスカガです。
過去ログにあげてなかったらしいのを発掘したのでUP。
賞味期限は過ぎてますが、妄想ifということで。



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