ライバル宣言(カガリvsミーア?)


「…え?」
「マジ…?」

 校門前に立ち塞がる1人の少女を学園の者は皆 凝視した後、思わず彼女と対になる人物の
 方を振り返る。

 印象的な桃色の長い髪、表情こそ違うものの 学園では知らぬ者はいないほど有名な少女と
 同じ容姿。
 そして彼女が睨み据える先には 今帰ろうとしている生徒会4人がいて。
 相手は当然同じ顔をしたラクスだと思われた。
 そう、畏れ多くも世界の歌姫に宣戦布告でもするのかと。

 ―――しかし その正体不明の少女を認めたラクスは、彼女に優しく微笑みかけた。

「あら、ミーアさん。」
「ラクスさまvv」
 途端にパッと表情を明るくして 彼女はラクスへと走り寄る。
 緊迫した雰囲気が一気に緩んでしまって、一緒に緊張して見守っていた生徒達は 何だそれ
 は!と心中でツッコミを入れた。


 けれど、当の本人達はそんな周りの心情など意に介さない。
 手を取り合って のほほんと挨拶など交わしている。

「―――ところで、今日はどうしてこちらまで? 私に何か?」
「あ、いえ、そうではなくて…」
 言うや、彼女はその隣のカガリを睨みつけた。
 それはもう親の仇でも見るような顔で。
「あたしが用があるのはそっちの女です。」

「…へ? 私??」
 カガリとしてはどうして初対面の少女からこんな敵意を向けられなくてはいけないのかと
 いう気分だったが。
 ふと 既視感を覚えて彼女をもう一度見て。
「あーっ! オマエ この前突然アスランに抱きついたヤツか!!」
 やっと思い出せたのか カガリは指差すと大声で叫んだ。

 それを聞いたキラに一瞬不穏な気配が漂うが、まだ様子見だと決め込んだのか何も言いは
 しなかった。
 ちなみに反対側―――カガリの隣にいるアスランは こっそり溜め息なんかついていたりす
 る。


「婚約者のラクス様を差し置いて2人っきりで帰るなんて許せない! アナタ 一体アスラン
 の何なのよ!!」
「…何ったってなぁ……」
 恋人ですとはっきり言っても良いのだろうが、見るからに他校の制服を着ている少女にば
 らしてしまうのもどうかと思って。
 困った顔でカガリは隣のラクスを見た。
「…ところで、この子誰?」
「―――彼女はミーア・キャンベル、今度の映画で私のクローン役をして下さる方なのです
 わ。前いた学校の後輩でもありますの。」
「…じゃあ年下か。」
 変なところに感想を持ったカガリは今の説明だけで納得してしまったのか、もう警戒心を
 欠片も残さず解いてしまったようだ。
 逆にミーアの方は何の説明もなく、当然それでは納得もできなかった。



「あたしは…っ ラクス様もだけど アスランにも憧れてて、でも2人はお似合いだって思っ
 て、だから諦めてたのに… なのに何でアナタみたいな人がアスランの隣にいるの!?」
「うん、まぁ、そうだよなぁ…」
 彼女の気持ちも分かるカガリは詰め寄られても強く反論できない。
 だって、どう考えてもラクスの方がアスランにはお似合いだ。
 カガリにしてみれば、彼が自分を好きだと言う方が信じられない。
 そんな感じで曖昧な返答しかしないでいると、彼女の方がいい加減に焦れて爆発した。

「アスランは あたしよりアスランのこと詳しい人にしか渡さないんだから! 勝負よ!!」
「―――じゃあ 僕が挑戦してみて良い?」
 カガリに言ったはずなのだが 何故かキラが手を挙げた。
「ちょっと待て。」
 そこですかさずツッコミを入れたのはアスラン。
 けれどキラはけろりとした表情だ。
「大丈夫、負けたりしないから。伊達に10年以上君の幼馴染で親友やってないし。それに
 勝ったらアスランを諦めてくれるんでしょう?」
 確かにラクスの婚約者としてのアスランの情報しか知らない彼女とキラを比べれば その差
 は歴然。
 ミーアに勝ち目がないのは当たり前だ。
 でも、彼女が渡す渡さないと言っているのは別に誰相手でも良いというわけではなくて。
「ちっがーうっ アナタじゃなくてそっちの女に言ってるの!」



「…キラ、何怒ってるんだ お前……」
「ん? カガリの目の前で抱きつかれた君と、さっきからカガリに失礼なあの子に。」
 ぎゃあぎゃあと喚く彼女に聞こえない程度にアスランが耳打ちすれば、にこりと爽やかな
 笑顔のままでそんな返答が返ってくる。
 怒っていることを否定しなかったから その怒りは相当のものだろうことは容易に知れた。

 今はそこまでないが、ラクスと付き合う前のキラはカガリにかなり依存していた。
 もちろん今でもキラはカガリが大事で。
 カガリの敵はキラの敵だ。

「…フォローはしたからな……」
 言い訳でしかないが 何も言わないのも誤解を深めてしまいそうで。
 でもそれに"分かってるよ"と言われて少し安心した。
 …まぁ、さっきの笑顔のままだったから、完全には安心できなかったけれど。



「アスランをかけて あたしと勝負しなさい!」
 アスランとキラが2人で話している間に、ミーアのテンションは最高潮を迎えて カガリへ
 の宣戦布告までに至っていた。
「え、私が勝てるワケないじゃんか。」
 その答えはめちゃくちゃ自然にあっさりと。
 よりによって完全に負けを認めてしまうものだった。
 しかもさも当たり前のように言われてしまって凹んだのはアスランだが、悲しいことに誰
 も慰めの言葉をかけない。

「私も10年一緒にいるけど 未だ全然アスランが分かんないんだ。この前だって突然抱き
 寄せて でも何も言わないし。いつも言わなきゃ分からないって言ってんのにさ。」
 明らかに恋人としてどうなんだという発言の後続けられた言葉に、ミーアだけでなくアス
 ランも驚いて顔を上げた。
 そして当の彼女の頬はほんのり赤い。
「しかも廊下のど真ん中。あれはスッゴイ恥ずかしかった。でも何回言ってもアスランは聞
 きもしないんだ。」
「あー あれはね、カガリが他の男と楽しく話してたのが面白くなかったんだよ。」
 クスクス笑いながら教えてくれたのはキラだ。
 けれど意味が分からなくてカガリは首を傾げる。
「他の男って… イザークだぞ、相手。」
 前生徒会長である彼は、カガリ達にとっては良きアドバイザーだ。
 彼はフェミニストで基本的に女性陣には優しく、カガリは彼のことをわりと好ましく思っ
 ている。
 けれど "そういう"意味では対象外だし、相手もそれは同じ。

「…それでも面白くなかったんだよ。」
 ムスッとした顔でアスランがキラの言葉を継ぐ。
 きょとんとして見上げてくる彼女から目を逸して、照れを必死で隠して。
「相手が誰でもどんな内容でも、俺は嫌だったんだ。」



「〜〜〜っ 今日はあたしの負けよっ でもまだ認めたわけじゃないからね!」
「…は?」
 まだ勝負はしていないはず。
 なのに何を思ったか、彼女は突然くるりと背を向ける。

 …目の前でごく普通に交わされる惚気話に耐えられなくなったことなど 天然バカップルの
 2人が気づくはずもない。

「また来るわ!!」
 それを捨て台詞(?)に 彼女は嵐のように去って行った。
 そして残されたカガリ達は訳も分からず立ちつくすしかなくて。


「…ところであの子が好きなのはラクスなのかな、アスランなのかな?」
「さぁ…?」


 ただ確実に分かるのは、

 あの少女はきっとまた来るだろうということだけ、、、







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素で惚気るカガリを書きたかった様子。
そしたら何故かアスランまで惚気てしまいました。この人は本当に予想外の行動を取ります。



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