誤解
  ※4人ともAA在住設定。さらに前回の続き。


 ―――分からない…

 アスランを好きかというラクスの質問に カガリはそう答えた。

 ―――だから そんなこと急に言われても、答えられない…

 カガリには難し過ぎた質問、けれどもラクスにはそれで充分な答え。



「―――キラはカガリさんに幸せになって欲しいと思いますか?」
 突然投げかけられた言葉にキラはポカンとする。
 人のベッドを勝手に占領してハロと遊ぶ恋人は、相変わらず質問の意図がよく分からないことを
 言ってきた。
「それは… 当然だけど。どうして?」
「…私もそう思いますから。」
 キラの疑問にラクスは笑顔で答える。
 会ってすぐに意気投合した女性2人は わりとすぐに仲良くなっていた。
「ですから、協力して頂けませんか?」
 そして向けられたのはかつて人々を魅了した歌姫の笑顔。
 きっと誰でもすぐに頷いてしまう。
 けれどキラは知っている。
 それには裏があるということを。そして彼に拒否権は無いということも…



 ―――なぁ、アスランを見なかったか?

 ラクスの予想とまったく同じセリフを言った彼女に対し、キラは教えられた通りの返事を返す。
 つまり 自分も用があるから一緒に行こう、と。
 そしてやはり 彼女はそれをあっさり承諾した。
 行動も言葉も、全てラクスに読まれているとは知らずに…



「―――……」
 前を歩いていたキラが曲がり角で突然止まる。
 ちょうどよそ見していたカガリは勢い余ってキラの背中に突っ込んでしまった。
「…った〜…… 何だよ急に。」
 くるりと振り返ったキラは 答えずカガリの肩を掴んで彼女も回れ右をさせる。
「戻ろう。」
「…? 何だよ それは。言ってる意味がわからん。」
「良いから。アスランは今取り込み中みたいだから後にしよう。」
 キラの言葉は有無を言わさない。
 けれど彼女もそこで諦めるような性格はしていなかった。
 むしろこういう言葉には反発してしまう。
「そういう言い方をされると気になるだろっ!」

「あ…っ!」
 キラの手を振り解いてすり抜け、彼が見ていたのと同じ場所を見、
 …そして、同じように立ち尽くした。

「だから言ったのに…」
 溜息混じりに言って 彼女を影に引き戻す。
「アイツ…」
 カガリが乾いた声で呟く。

 キス、してた…?

 見えなかったけれど、ラクスを背にして屈んで… あの体勢はどう見ても…
「でもラクスは お前の…っ!」
 キラは静かに目を閉じる。
「…僕も見なかったことにするから。もう行こう。」
 そう言って自分の肩を掴む手が、少し震えているように感じた。
「…―――っ!」
 何故だか胸がざわざわする。
 同時に意味の分からない怒りが込み上げてきた。


「―――アスラン!!」
 怒鳴り声にも似た、張り裂けんばかりの声を上げ、カガリは飛び出した。

「えっ? カガリ?」
 アスランが顔を上げた先には、自分を睨み据え、噛み付く勢いで立つ彼女の姿。
 その後ろでキラが「あーあ」と 呆れた表情で彼女を見ている。
「え? 何??」
 状況を把握できていないアスランは戸惑うばかりだ。
 その間に彼女はズカズカと近づいて来て、彼の胸倉を力いっぱい掴んで引き寄せた。
「…ンの 馬鹿野郎! お前なんかもう知らないからな!!」
「ハ…?」
 いわれの無い罵声に アスランはもうワケがわからない。
 俺が何をしたと言うんだ。
「素直に信じた私がバカだった!」
 一方的に言うだけ言って カガリはその場を走り去った。



*******



「何なんだ? 今の… てかどうして俺がバカ扱いされなきゃならない…?」
「…あらあら。」
 白々しく彼女は驚き、アスランを見上げる。
「誤解されてしまったようですわね。」
「エ?」
 ラクスの笑顔に アスランは妙に嫌な予感を覚えた。
 いつもの無邪気さとは違う、何か別のものが混じったその表情を何度か見たことはある。
 その度に何かが起きた。
「知っていましたか? さっきの、見る位置ではキスしているようにも見えるのですわ。」
「!!?」
 ようやく事態を把握して、彼の表情はこれまでに無いくらい青褪める。
「まさか… ラクス…」
 目にゴミが入ったなんてのも 実は演技…?
 口をパクパクさせているアスランに対しても、ラクスに悪びれた様子はない。
「これは早く誤解を解かなくてはなりませんわね?」
 にっこりと彼女は笑顔で言った。
 今度はラクスの後ろで、キラは手を合わせて必死で謝っている。
「……!」
 理解した瞬間、彼の足は彼女が去った方向へと向いていた。


「―――さすがはアスラン。行動が早いですわね。」
「でもこれは… ちょっと やりすぎじゃないのかな……」
 困った表情でキラはラクスに言う。
「あら。これくらいやらなくてはカガリ様は自分の気持ちに気づきませんわ。」
「でもこれじゃ… そう簡単に和解とかできなさそうなんだけど…」

 あれだけ怒ってて、アスランが誤解だと言ったところでカガリが許すかどうか…
 それ以前にアレが誤解だと どうやって説明したら分かるんだろう…?

「そこはアスランの力量次第ですわ。方法は1つですけれど。」
 そう言って笑う彼女はやっぱり策士。きっと彼女には誰も敵わない。

「……そういえば。今回のってさ。」
 調子を変えて 今度はキラが微笑んだ。
「僕にも嫉妬させたかったとか、ない?」
「あら どうしてですの?」
「もし僕が何も知らされてなかったら、きっとアスランに殴りかかっていただろうから。」
 震えていたのは演技じゃなかったから。
 分かってはいても、心がざわついて抑えるのに必死だったのは本当。
 後ろから優しく彼女を抱きこむ。
「これだけ表現してるのにまだ何か不満?」
 ふぅ、と溜息をつく彼の身体にラクスは身を預けた。
「いいえ… 充分ですわ。」
 これは予想していなかったけれど。

「…ごめんなさい。」



*******



 ―――っ アスランの馬鹿野郎!

 意味がわからず、でも悔しくてたまらなかった。
 どうしてこんな気分になるのか分からないけれど、さっきの場面を思い出すたびに怒りと胸の
 痛みが押し寄せてくる。
 流れそうになった涙をグイッと拳で拭いた。
 でも止まらないそれは 次から次へと零れ落ちてくる。
「なんだよ これは…っ」
 なんで泣くんだよ…!
 何が悲しかったんだ、あんな訳の分からないヤツ どうだって良いじゃないか!
 今までのだって からかわれてただけじゃないか。分かってたじゃないか。
「なのに、なんで…!」
 なんで涙が止まらないんだ…っ


「―――カガリ!」
 手首を掴まれ、ハッとカガリは振り向いた。
 真っ直ぐに見つめてくる緑色の、深い瞳。
 僅かに肩を上下させ、きっと走ってきたのだということは分かる。
「っ 離せよ!」
 振り解こうと強く振る。けれど掴まれた手は離れない。
「話を聞いてくれ。さっきのは…」
「! 私は話なんて無い!」
 何も聞きたくない。
 アスランの口からなんて 絶対に聞きたくない。
 首を振る彼女に言おうとして、アスランは前にキラに言われたことを思い出す。


 ―――言葉が足りないよ。

 アスランは 僕以外には無口だと思われてるんだよ。
 ずっと前にも笑いながら言われた。
 言葉が足りない…

 ―――自分の気持ちは口で伝えなきゃ通じないんだ。

 待っていても相手は気づいてくれないよ。
 普段は子どもっぽいのに たまに大人びたことをキラは言う。
 それにはいつも驚かされた。


「―――信じてくれないならそれで良い。」
「…!」
 アスランの静かな声に、ピタリと カガリが止まった。
「でも。あれは誤解だ。」

 "自分の気持ちは…"

 言われた言葉を反芻する。
 そして突然カガリの腕を引いて身体を抱き寄せた。
 急なことにカガリは目をぱちくりさせる。
「ア、アスラ…!?」
「好きだ。」
「!?」
「カガリが信じなくても俺は本気だ。」
 耳元で囁くように、でもはっきりとした声。
「〜〜〜〜〜っ!?」
 カガリの顔は沸騰したように真っ赤で。
 でも アスランからその表情は見えない。

 彼女の肩が強張るのを感じて、アスランは苦笑いしつつ彼女を解放する。
「急に言われても困る、か。」
 それはそうだろうなとアスランも思う。
「…嫌ならもう近づかない。」
「…!」
「俺は部屋に戻るよ。」
 くるりとあっさり背を向ける。

「―――!」
 今言わなければ。
 きっとまた変な意地を張ってしまう。

「あ…っ」
「ん?」
 カガリの呼びかけに応えてアスランは振り向く。
 不思議そうに見ると 彼女はいつもの強い調子で自分を見ていた。

 意志の強い瞳。俺が惹かれた彼女の。

「お前 鈍すぎ!」
「え?」
「私もだって言ってんの! そんなこと言わせんな!!」
 頬を赤く染めつつ、けれど笑顔で。
「やっとお前の気持ちが分かった。ずっと、不安だったんだぞ 私は。」

 ああ、なんだ…

 彼女の笑顔を眩しく感じながら アスランはクスリと笑った。

 キラの言う通りだったな…







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まだ共闘してませんね。(6/15、16に制作)



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