追いかけっこ
  ※4人ともAA在住設定


 ――― キラは、アイツと親友だったんだろ?

 そう聞いたら、キラは切なげに笑った。

 ――― …親友、だったよ。

 ――― どんな奴だった?

 彼の話をしだすと、キラはいつも遠い方ばかりを見ている。

 ――― 怒りんぼで でも面倒見が良くて。文句を言いながらいつも手伝ってくれたんだ。

 ――― そして何でも出来て、いつも冷静で。僕は頼ってばかりだった。


 …前にキラから聞いた彼の話は私が受ける印象と同じで。
 だけど少し違うところもあったりした。
 自分の中で、彼はとても危なっかしくて寂しげで。
 一緒に泣いたあの時の 消えてしまいそうな印象がまだ残っている。
 それは 再会した今でも変わらない。



「お2人ともお疲れ様です。」
 戦闘から戻ってきた2人にラクスが笑顔で声をかける。
 そして彼女は迷わずキラに飛びついて 頬にキスで迎えた。
 彼女の表現は意外にストレートで 周りに隠す様子もない。
 キラはまだ慣れずに戸惑っていて、そんな2人をアスランは微笑ましく思いながら見る。
 元婚約者といっても 彼女は親が決めた相手だ。
 お互い友達以上には思えなかった。

「…」
 視線を感じて顔を上げると、カガリが睨むようにじっとこっちを見ている。
 けれど 目が合った途端、彼女はスッと逸らした。
「―――…」
 それが癇に障ったのか、アスランは彼女の方へと歩き出す。
「!」
 それに危機感を覚えたカガリは急いでそこから出ていき、当然アスランもついて行ってしまった。
「何 やってるんだろ…」
 残った、こちらはすでに恋人と呼べる間柄の2人は 彼らを半ば呆れた様子で見送った。



「って 何でついてくんだよ!」
「お前が逃げるからだ。」
「っ逃げてるわけじゃ…!」
 歩幅が違うのだから追いつかれるのは当たり前だ。
 けれどそれでもカガリは諦めずに差を広げようとする。
 それに対してアスランはまたムッとした。
 がっしりと彼女の腕を掴むと 強引に彼女の身体を壁に押し付ける。

「え…?」
 さっきまで後ろに居たはずの彼が前に居た。
 至近距離もいいところな目の前に彼の顔が映っている。

「逃げるな。」

 常に無い強い調子でアスランはカガリに言った。




*******




「…言いたいことがあるなら言えば良いだろう。」
 低く 静かな声。明らかに怒っている。
 でもそこで引く気にもなれなくて。
「べ、別にっ 言いたいことなんか何も…っ!」
 顔を背けて下を向くと、彼の視線は上から威圧感を持って降り注ぐ。
「じゃあどうして目を合わせようとしないんだ?」
「…っ」
「不満があるなら言えば良いじゃないか。」
 彼が言葉を紡ぐたびに吐息が耳元にかかる。
 それに身を震わせ、おさまらない心臓の音が聞こえはしないかと 彼女の緊張は頂点まで上った。


 〜〜〜不満だらけだよっ
 優しくしたと思ったら、「無茶はするな」「じっとしてろ」と怒ってくるし。
 勇気を出して話しかけたら「忙しい」の一言で私よりキラを取る。
 何の前触れも無く突然誘われても 終始無言で何も言わない。
 私のことを好きなんだか嫌いなんだかハッキリしなくてイライラする。

 そして何より1番不満なのは、それでも何かを期待してる私の心。
 その気が無いなら期待させるようなこと言うなよ。
 キラにまで嫉妬してる自分が惨めに感じる。
 こんなの私じゃない。

 ―――それでも。
 一緒に泣いた時の彼の顔が忘れられなくて。
 キラも見ていない彼の部分を知っていると分かってから。
 気になって仕方が無くて 目が離せなくなった。目が自然に彼を追ってる。
 だから期待してしまった。
 真実を知った時に 傷つくかもしれないとどこかで知ってはいたけれども。
 それでも、期待してしまった。

 お前は私をどう思ってるんだ?
 お前こそ、私に何か言いたいことがあるんじゃないのか?


 もう頭の中はぐちゃぐちゃだ。
 言いたいことはやまほどある。でもそれが言葉になって出てこない。
 まず第一に 互いの体温を感じるほど近い距離で正気を保てというのは無理な話だ。
 かといって 彼の強い力は所詮女の身では敵うはずも無く。
 この状況をどうすることも出来なくて、カガリは泣きたい気持ちになった。



「―――カガリが泣きそうだからその辺にしといてあげなよ。」
「「!」」
 言葉とは裏腹に クスクス笑いながら歩いてきたのは…
「キラ…」
 彼の姿を確認すると、アスランは彼女を掴んでいた手を緩める。
 明らかにホッとした様子でカガリはキラを見た。
 そんな彼女にキラは優しく笑いかける。
「カガリ、ラクスが呼んでるから行ってあげてよ。僕はアスランと話があるから。」
「あ、うん…」
 確かにホッとはしたけれど、けっきょく今度も彼の気持ちは分からないまま。
 今は自分から離されたその緑の瞳をちらりと見て、カガリはアスランには何の言葉もかけずに
 キラの横を通り抜ける。
「アリガト…」
「どういたしまして。」
 通り抜ける際の会話は 小さ過ぎてアスランには聞こえなかった。


 姿が見えなくなるまで見送った後、キラはアスランの方を振り返る。
 残された彼は まだ半分ボーっとしているようだった。
「…アスランが女の子にここまで積極的なのは初めて見た。」
 キラはからかうような口調で笑う。
「でも言葉が足りないよ。あれじゃ怖がらせるだけだもん。」
 上から威圧する命令口調じゃ誰だって怖がるよ。とさらには先輩気分で注意してきた。
「〜〜〜一体どこから聞いてたんだ お前はっ」
「聞こえただけだよ。」
 憮然としたアスランに対してキラはさらっと言い放つ。
「お前な…」

「…ねぇアスラン。」
 抗議の言葉を遮り、急に真面目になってキラはアスランを見た。
「カガリは僕にとっても大切だから。」
 姉としても 友達としても、全て含めて大切だから。
「アスランになら任せられるって思ったんだからね。ちゃんと守ってよ?」
 弟として、友達として、彼女の幸せを願っている。
 その役目が自分じゃなくても、彼女を守りたいと思っている。
 いつか自分が言ったセリフをそのまま返されたアスランは、苦笑いしかできなかった。
「―――あぁ。お前の分まで彼女は俺が守るよ。」
 そして彼もまた、あの時と同じ言葉を返したのだった。







---------------------------------------------------------------------


まだ共闘すらしてない頃に書いたものです。



BACK