白い花 -陛下ver.- 1




(―――耳障りな音だ。)
 ほとんどの音は耳を素通りしていくが、それでも不快感は拭えない。

「私は陛下のためを思って…」
 そのセリフは聞き飽きたと内心で吐き捨てる。

(私のため? ―――自分のためだろう。)
 王の身を案じる有能な臣下のつもりか。
 そんな男の身勝手さには反吐が出る。

「今一度、お考え直していただきたく…」
 言うことは皆同じ。もうウンザリだった。


「お前が何と言おうとも、私は意志を変える気はない。」
 馬鹿らしいとばっさり切り捨て、玉座から立ち上がり外套を翻す。
 これ以上は時間の無駄だと男に背を向けた。

「陛下! お待ちください!」
 なおも男は食い下がる。


(…これ以上私を不快にさせるな。)

 何度も同じ言葉を聞かされて、いい加減我慢も限界にきていた。
 腰のものを抜きたくなる衝動をギリギリで抑え込む。

「―――こんなことに時間を割く暇があったら、この前の件のもっとマシな案を出せ。」
 固まる男を捨て置いて、黎翔は今度こそそこを出た。










 本当にくだらない。そんなに自分の身と財が大事か。
 これが王宮の本来の姿だと分かってはいるが。

『我が娘を妃に…』
 まだ諦めていない者達がいる。


 無駄だ。私は夕鈴しか要らない。
 ―――夕鈴だけがいれば良い。


「…ああ、苛々するな。」
 今政務室に戻れば、官吏達が怯えるだろう。
 誰が怯えようと構いはしないが、その後の李順の小言は面倒だ。
 あれは余計にストレスが溜まる。


(―――そうだ、夕鈴に会いに行こう。)
 ふとあの柔らかな笑顔を思い出した。
 彼女ならこのささくれだった気持ちを静めてくれる。

(あの笑顔に癒してもらおう。)
 彼女のことを考えると幾分気持ちが軽くなった。






「――――…」
 会いたいと思った矢先に彼女の笑顔を見つける。
 …しかし、それは自分に向けられたものではなかった。


 他の男から花を受け取り微笑む彼女。
 その唇が形作り紡ぐのは感謝の言葉だろうか。

 彼女の手に渡る愛らしく白い花。
 それが似合うだけに、余計苦々しく思う。

 単純に綺麗な花をもらって喜んでいるだけだと、頭では分かってはいる。
 だが、今の自分にはそれすらも耐えられなかった。



『夕鈴だけがいれば良い。』

 頭に響くのは自分の声。
 暗く澱んだ感情が身体中を蝕んでいく。



 "それ"は私だけのものだ―――…

















「!?」
 花に夢中の兎を捕らえて、脇の薄暗い部屋に連れ込む。
 扉を閉めると外から遮断され、冷えた空気が2人を包んだ。
「…ここなら誰も来ないか。」
 普段は物置に使われている空き部屋だ。まず人が入ってくることはないだろう。
 最初腕の中で暴れていた彼女は、黎翔だと気づくと大人しくなった。

「な、何ですか!?」
 顔を真っ赤にしながら、彼女は後ろから抱きすくめている黎翔を見上げて抗議の声を上げ
 る。

 いつでもこの腕からするりと逃げていきそうな、元気な兎。
 ―――そんなことを、許すはずがない。


「夕鈴」
 顎をとらえ、冷えた声で音を耳元に注ぎ込む。
 それに怒りの一端を感じ取った彼女の身体がびくりと震えた。

「―――私が古狸共と戦り合っている間に、君は他の男と談笑か。」
「ッ!」
 ゆるりと彼女を拘束する力を強める。

 温かな、柔らかな身体。
 それに己の欲を自覚する。


「しかも君に下心を持つあの男とは…」
 普段ならこの程度のことなど気にも留めない。
 あの男は夕鈴の数少ない味方だ。あれ以上は踏み込まないと知っている。

 …だが今は、それを許容する余裕がなかった。


 空いていた手で彼女の腕を辿り、手の中の白い花に行き着く。
「あ…」
 それを奪い去り、持ち上げて彼女の眼前に晒した。

 彼女に似合う白い花。
 可愛らしく、汚れを知らないような、無垢な色。

 ―――それを、一切の加減なく握り潰す。


「―――――!」
 目の前で花を潰され夕鈴は愕然とする。
 大きく見開いた瞳で 白い花弁がぱらぱらと落ちていく様をただ見つめていた。

「君は、誰のものだ?」
「…ぁ……っ」
 舌で彼女の耳の形を辿る。
 与えられる熱を知っている唇からは意志と反して甘い吐息が漏れ、気づいた彼女は慌てて
 息を飲み込んだ。


(―――我慢するのか。)
 そんな彼女に嗜虐心を刺激される。

(ならば、どこまで耐えられるか試そうか?)
 昏く笑んで、さらに腰を引き寄せた。


「夕鈴」
 花弁を潰した指で首筋を撫で、震える身体を楽しみながら下ろしていく。
 鎖骨に爪を立てて痕を残せば小さな悲鳴が漏れた。


 ―――優しくなどしない。
 今考えているのは、君にどう痕を刻むか。ただそれのみ。


「や だ…っ」
 片手で帯を解いて床に落とす。
 緩んだ襟の中に手のひらを這わせ、柔らかな肌に滑らせた。
「へい か…!?」

 こんな場所で"何"をする気か。
 黎翔の意図を知って彼女は青ざめる。
 しかし、止める気はない。



「やめ、… っ」
 黎翔の手首を掴んで彼女は必死に抵抗を示す。
 それは黎翔自身を拒絶しているかのように感じた。


「……私を拒絶するか。」
 怒りを通り越して笑ってしまう。

(君がそのつもりなら―――…)


「君はまだ自覚が足りない。」
 目尻から溢れ出る涙を舌で舐め取る。
 常のように止めるためではない。その涙すらも自分のものだと思うからだ。

「君が誰のものであるか――― もっと心にも身体にも教え込まねばな。」
 耳元で囁くのは、彼女にとっての絶望の言葉。
「ッッ」
 見開いた瞳からはさらに涙がこぼれ落ち、流れるそれに愉悦を得た。






 ※続きの見方は下部に記載。



2012.3.19. UP



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「白い花」の陛下ver. 
ということで、表で端折った部分を陛下視点で書きました。
全体的に黒くてほの暗いので全部秘密部屋です。

えーと、甘さは全くないです 今回。
無理矢理です。はい。
そこまで痛い表現はないはずですが、いちゃ甘が良い方は見ないことをオススメします。
それでも大丈夫という方は続きをどうぞ。
2を読まなくても、1と3で陛下視点の補完は出来るはずですので。

<<2の閲覧方法>>
えーと、まず注意なんですが。
18歳未満の方(高校卒業年齢に達していない方)は18を超える年齢までお待ちくださいね。
さすがにこれを「生徒」と呼ばれる年齢の方には見せるわけには……(汗)

いいえ、18歳越えてるわ!というお姉様方は―――
下記の簡単な計算問題にお答えいただいた後、アドレスバー(携帯ならダイレクト入力)に直接書くなり
コピペするなりして飛んでください☆

【白い花2】
 http://earth.yu-nagi.com/ookami/white-f☆★★.html
  ※☆…夕鈴が恋心を自覚した巻数
  ※★★…と、それを宣言した話数
  ※ヒント:『花嫁は 狼陛下に恋をしています』

ご面倒ですが、サイトを継続するためにもご協力をお願いしますm(_ _)m


 ※ ちゃんとアドレスバーに入れたのに飛べない…等の不具合がある方は、
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