白い花 -陛下ver.- 3




 気を失って横たわる彼女の 青ざめた頬を撫でる。
 そこに残るのは痛々しい涙の跡。

 ―――それに胸が痛まないわけではない。
 自分が彼女に何をしたかも十分理解していた。

 それでも止められない。
 彼女に向かう感情は、ただ優しいだけのモノじゃないから。




「へーか。李順さんが探してたよ。」
 物陰からひょこっと浩大が顔を出す。
 …今更何を見られても驚きも動揺もしないが。

「ああ、分かった。」
 姿を消していたのはそこまで長い時間でもなかったが、李順が不審に思うのは当然だ。
 変に詮索されるのも嫌なので、仕方なく腰を上げた。


「八つ当たり、かわいそーお妃ちゃん。」
 後ろをちらりと見た浩大は苦笑い。
 自覚はあるから否定もせずに無言で通す。

 すぐに戻るつもりで、彼女を残したままで部屋を出た。


 ―――扉が閉まった後に、彼女が目を覚ましたことには気づいていなかった。











 李順には適当に理由を付けて抜け出し、短時間で戻ってきたのにすでに抜け殻だった。
 きちんと畳まれた外套は彼女の律儀さを表しているのだが。


「―――逃げたか。」
 我ながら底冷えするほど冷たい声が出た。
 治まりかけた感情が再び芽を出す。

 動けないから逃げないと思ったら、どうやら甘かったらしい。

「…相変わらず元気な兎だ。」


 冷たくなった外套を拾い上げて羽織る。そこに微かに残る彼女の香り。
 しかし、欲しいのは残り香ではなく彼女自身だ。


「どこだ…?」
 香りの元を追いかけて、黎翔は再び踵を返した。












*












「―――断りました。」
 絽望の姿が消えた後、前を見据えたままで彼女が言う。
「ああ。」
「これで、誤解は解けましたか?」
 くるりとふり返った夕鈴はもう泣いていない。
 強い瞳でこちらを真っ直ぐに見据えてた。


(ああ、そうか…)

 彼女は白い花。
 私にさえも染まらない―――


「―――――…」
 感情に突き動かされるがまま無言で彼女を抱きしめた。
 出来るだけ優しくしたつもりだが、夕鈴の身体はビクリと強張る。
 それでも抵抗はされなかった。…彼女は本当に優しい。



「……信じていないのは私か。」

 分かっている。彼女は裏切らない。
 彼女は最初に言った言葉の通り、いつでも自分の味方だ。それは誰より知っている。

 彼女は変わらない。染まらない。
 それは分かっているのに、止められない。


「君を愛している。こんなに誰かを深く愛したのは初めてだ。…君だけなんだ。」
「陛下…?」
 そろりと彼女が顔を上げる。
 けれど目が合わせられなくて腕の中に閉じこめた。

「この深すぎる想いが君を傷つける。…それでも離れられない。」
 ―――離せない。


 他に何も要らない。彼女だけいれば良い。

 これは独占欲などという生易しいモノではない。
 執着、妄執… もっと深く昏いモノ。


 いつか彼女を壊してしまうかもしれない。
 たとえ彼女の心が離れても、自分は彼女を離せないから。




「……陛下、私は貴方が好きですよ。」
 奪うだけの私に、彼女は与え続ける。
「ああ。」
 その度に救われる。

 ―――それでも心の奥底の闇は拭えない。



 手に入れたはずなのに、時折不安に襲われる。
 その度に焦り、彼女を縛って傷つける。


 それは何故か。


 …答えはまだ見つからない。




2012.3.19. UP



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陛下が病んでますね(汗)
手に入れた「はず」なんですよねーってゆー話です。

陛下は夕鈴が離れること、拒むことを極端に嫌がっています。
手に入れたのに、いや 手に入れたからこそというのか。
まあそこに2人の意識のすれ違いがあるんですけど。
ってゆーシリアスをですね。考えてるとキリなくなっちゃってですね。
こんな話が出来上がってしまいました…

次からはいちゃ甘に戻ります。てか戻します。
…いえ、裏の話ではなくて。
えにょ話は気力が要るのでなかなか書けません〜(汗)

では、ここまでお読み下さり、ありがとうございました〜
 


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