願い -初夜- 1





 その手を取ったのは、私。




 寝室に入ると、奥の夕鈴の寝台で陛下が腰掛けて待っていた。

「温まった?」
 ふんわり笑う彼から優しい声をかけられ、夕鈴は少しだけ肩の力を抜いて「はい」と頷く。
 気遣われているなと思いながら、余裕がなかったから素直にそれに甘えた。


 ―――陛下の手を取ったあの後。
 ずっと外にいたせいで体が冷えてしまったからと、陛下に湯殿に連れて行かれ、夕鈴はそ
 こに一人置いて行かれた。
 でもずっと陛下が抱きしめてくれていたから、身体が冷えたなんてあるわけなくて。

 ―――その本当の理由には夕鈴も気づいている。
 陛下は私に、心の準備を整えるための時間を与えてくれたのだ。


「すみません。お待たせしました。」
 他の意味も込めて言えば、気づいた彼からは苦笑いが返ってきた。
「…そうだね、ここで待ってないとは言えない。」

 余裕がなくてゴメンね、なんて。肩を竦めて言う彼の瞳の奥に「男」を見て、夕鈴は一気
 に首まで真っ赤になった。


 …小犬のようでいて、違うような。不思議な感じ。
 どこかいつもと違う陛下にドキドキが増す。

 今から何をするかくらい、夕鈴だって朧気ながら知っている。
 でもまさか私が―――しかも陛下とだなんて、考えたこともなかった。



「夕鈴」
 おいで、と、先程と同じように彼が手を差し伸べる。
「…ッ」

 ―――今更 その手を拒むつもりはない。

 お風呂の中でぐるぐる考えたけど、最終的に深く考えるのは止めた。
 今夜この人は私を求めて、私はそれに応えた。
 それが今夜限りの夢でも良い。
 私はこの選択に後悔しない。それだけ。

 すぐに動けなかったのは、ただこれから先が未知のもので、それに緊張してしまっただけ。
 胸の前でぐっと手を握りしめて、ゴクリと唾を飲み込む。
 それから竦みそうになる足を叱咤して、ゆっくりゆっくり彼の前まで歩み寄った。
 そうして握りしめていた指を解くと、おそるおそる彼へと伸ばす。


「…逃げなかったね。」
 指先が彼の手のひらに触れた途端に手を取られ、ぎゅっと強く握られる。
 まるで、逃がさないとでもいう風に。
「逃げませんッ」
 でも、夕鈴もここで引く気はなかった。
 虚勢を張ってきっぱり返すと、「夕鈴らしい」と笑われる。

 ―――それが、とても嬉しそうに見えたのはきっと気のせいじゃない。


「最後のチャンスだったのに。もう逃がさないよ?」
 彼が言い終わらないうちに視界が反転する。
 真白く柔らかな褥に背が沈み込み、絡んだ指ごと縫い止められた。

 そうして見下ろしてくるのは、―――見たことのない表情をした彼の人。

「拒んでも止められない。」
「はっ はい!」
 反射的に返事をしてしまうと、彼は虚を突かれたように一瞬目を丸くして…

「いい返事だ。」
 赤い瞳の綺麗な狼が、低く嗤った。



 ―――本当に綺麗なヒト

 美人は三日で飽きるなんて絶対嘘。
 いつまで経っても慣れなくて、いつだってドキドキさせられている。

 平凡な私には、本当にもったいない程 過ぎるヒト、、、


「夕鈴、目を閉じて。」
 近づいてくる端正な顔をぼんやり眺めていた夕鈴に彼が困った顔をする。
 口付けができないと言われて慌てて瞑った。
「あ、はいっ すみませ―――…んっっ」
 …最初はそっと触れるだけ。
 それから啄むような口付けが繰り返されて、次第に深く長いものに変わっていく。
 時折唇を舐められ、その度に背筋が震えた。
「…ッ ぁ」
 息苦しくて小さく口を開いたのを狙ったかのように、温かいものが咥内に入り込んでくる。
「っ!?」
 予想外のことでビックリしてしまって身を引きかける――― けれど、それは許されなかっ
 た。

 柔らかく、けれど強く。彼の腕に拘束されて離れるどころかさらに引き寄せられる。
「ふ… んぅ」
 歯列をなぞられ、舌を絡めとられ、丹念に執拗に、余すところなく触れられて。

(―――あ、また…)
 背中を駆け上がる不思議な感覚。
 不快ではないけれど慣れないそれに戸惑いを隠せない。

 ―――けれど、それもほんの短い間。
 すぐに何も考えられなくなった。

「ぁ、…んんっ」
 上手く息ができなくて次第に息が上がっていく。
 視界が潤んで彼の顔がぼやける。
 重なり合った場所から吐息も何もかもが混じり合って。濡れた音が漏れ出して。

(溺れそう……)

 無意識に彼の襟元を掴んでいたらしい。
 皺が寄るほど強く握りしめていたそれを、大きな手のひらが包み込んでそっと撫でてくれ
 る。
 ―――そして夕鈴の限界を察してくれたのか、最後に名残惜しげに音を立てて唇が解放さ
 れた。


「…ッ は、ぁ……」
 空気を求めて大きく息を吸う側で、飲み込みきれずに流れ落ちる銀糸を舐め上げられる。
 小さく震えれば、楽しげに笑う気配。
「―――本当に美味しそうな兎だ。」
 それから、目尻、瞼、頬、、 軽い音を立てながら唇が触れていく。
「たべ、るの…?」
「食べるよ。……じっくり、ゆっくり、ね。」
 いつかより優しく鼻先を噛まれ、耳朶にはカリッと音を立てられる。
「っ」
 陛下が与える全てにいちいち反応してしまう。
 そんな私に陛下はクスクスと笑う。
「夕鈴、可愛い。」
 砂糖菓子のように甘い声で耳元で囁かれ、思わずふにゃりと力が抜けると、身体を拘束し
 ていた心地よい重さが離れた。

「陛下…?」
 突然身を起こした陛下に不安を感じて縋るように見上げる。
 離れたのはほんの少しなのに、このまま遠くなっていきそうで怖かった。
「夕鈴」
 そんな不安を打ち消すように、優しく見つめる瞳と甘く紡がれる名前。
 頬を撫でる大きな手のひらが大丈夫だと言っているようで…
「陛下…」

 ああ、なんて優しい人なんだろうと、その手に頬を擦り寄せる。
 そうして夕鈴がにこりと笑みを見せると、彼も同じように返してくれた。

 明確な言葉は何もないのに、それだけで不安は全て消え去っていく。
 見つめ、見つめ返される。その間にもう一方の手が腰を辿り、帯の結び目にかかった。

「…脱がすよ?」
「ぇ…? あ、」
 言葉は問う形だけれど、夕鈴の返事を待たずに帯がするりと解かれる。

 流れるような動作で肩から手が差し入れられ、襟を開かれると前がはだけて白い肌が露わ
 になった。






 ※続きの見方は下部に記載。



2013.4.28. UP



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聖様へのお礼リクエストのラストになります。
って、1年以上前だよ!(汗) お待たせしすぎだよ!!
ううっ ごめんなさいー(>_<)
聖様には先に他のリクも一緒に冊子にしてプレゼントしました。
久々の本作り 楽しかったvvv

えーと、リクはずばり「初夜」です。
内緒の恋人を選んだのは、未来夫婦の方はまだはっきり時期を決めてないからです。
コンセプトはじっくりエロ?
我ながら無謀な挑戦をしたと思います… 表現ストックが尽きましたー…

そういえば、男は相手の最初になりたがって、女は最後になりたがるらしいですよ。
確かにそうだな〜と思います。

そんなこんなで無駄に長いですが、続き読んでやるぜという奇特な方は下からどうぞ。




<<2以降の閲覧方法>>
えーと、まず注意なんですが。
18歳未満の方(高校卒業年齢に達していない方)は18を超える年齢までお待ちくださいね。
さすがにこれを「生徒」と呼ばれる年齢の方には見せるわけには……(汗)

いいえ、18歳越えてるわ!というお姉様方は―――
下記の簡単な計算問題にお答えいただいた後、アドレスバー(携帯ならダイレクト入力)に直接書くなり
コピペするなりして飛んでください☆

【願い -初夜-2】
 http://earth.yu-nagi.com/ookami/first-n☆★★.html
  ※☆…陛下から夕鈴へのイヤガラセのキスがあった巻数
  ※★★…と、その頬ちゅーがあった話数
  ※ヒント:『ほんと頑固だなぁ』
【願い -初夜-3】
 http://earth.yu-nagi.com/ookami/f-night○●●.html
  ※○●●…上記の数字と同じ

ご面倒ですが、サイトを継続するためにもご協力をお願いしますm(_ _)m


 ※ ちゃんとアドレスバーに入れたのに飛べない…等の不具合がある方は、
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